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――――クラウディア CIC 本編のちょっと前 「指揮官はお前じゃない!分かっているのか!」 クロノの叫びがクラウディアに響き渡る、怒鳴られているのは副官を務めるカール・ライカー一佐だった、事の顛末は、 ある反管理局組織の本拠地を発見制圧に向かったのだが、ライカーは罠があると想定して様子を見て(もしくは徹底した 攻撃を加えてから)という意見に対しクロノはあくまで証拠確保のためにも早期突入を示唆、結局クロノ案に従いクロノ 自ら陣頭指揮による早期突入となったが、それに案じたライカーは独断でクラウディアを動かし、搭載されている魔道火器使用に より本拠地を潰したのだ、それは結局功となった。もうすでに本拠地は蛻の空で内部には自爆用の爆弾が多数設置されていたからだ、 クロノは自分の迂闊さを呪い、ライカーには感謝した「流石は管理局で5本指に入る優秀な士官」と言われることはあると… ライカー自身も無能な上官に対しては徹底した侮蔑をするがそれを認め、意見を請うなど改善して行けば上官として認める。 そういったタイプだったが次の行動がクロノを激怒させた、反管理局組織を追いかけたがクロノが負傷した為ライカーが命令を 勝手に変更し組織のボス、ならびに幹部を皆殺しにしたのだ、それも徹底的に無慈悲に… 「無駄な抵抗して局員を負傷もしくは死亡させるより何倍もマシだろう、凶悪犯罪者は捕らえるよりも根絶やしにした方がいい」 (軍時代に対ゲリラ戦など見てきた)彼の合理的な持論が結果的にクロノを怒らせる事になった。 「管理局は法治組織だ、殺すと言う事はお前がかつて所属していた人殺しの組織…軍隊だ!」 クロノ叫んだ後のライカーの表情も不味かった、そう丸で「はぁ?何言っているんだこいつ?」といった 侮蔑した表情をした為だ、それが火に油を注ぐ羽目になった、何せ戦闘能力は低いが成績はきわめて優秀で バックサポートにおける役割はライカーの方が圧倒的高く局内の評価も高い(彼の手腕で解決した事件もクロノより多かった)、 それに比べ自分は局内で「親の七光」で蔑まれている事も知っていた、それらに対する鬱積、嫉妬などが一気に爆発した、 あらん限りの罵声をライカーに浴びせかけた。 「何が優秀な士官だ!血に飢えた殺人者じゃないか!」 「これだから元軍人は!」 だが周りの視線に気づいたのか罵声を止めると吐き捨てた。 「お前は副官解任だ!もう二度と船に乗れると思うな!」 ――だが断っておこう、クロノはその暴言を後で猛反省したし、彼自身の能力も高く、 ライカー自身も「嫉妬する奴にいちいち構うな」とクロノに言い聞かせていた。 だがクロノは提督になるには…あまりにも頑固すぎた。 ――――管理局内のある将官達の会話 「新設部隊の予算が決まったよ」 「どれどれ…ゲッ!うちらの部署の予算より倍以上じゃねぇか!」 「何てこった!とばっちりがこっちに来ているよ」 「頭痛ぇ~~~」 「んんんんん…ケッ!相変わらず予算が豊富なのは全部3提督の息のかかった連中じゃないか!」 「そりゃカナリスも逆らうわけだ」 「そういや一時期ゲーレンやシェルドンの更迭も考慮しているらしいぞ、カナリスの教え子たちで あり通じていたという事で…まぁ実際は提督派の人間がカナリスによって叩き出されて、主要幹 部が数少ない全員非3提督派で占められているのがよっぽど気に食わないらしくて」 「おいおいおい、どこまで強欲なんだよ」 「この前聞いたけど、情報局に圧力かけたらしいぞ、予算欲しければこちらの指名する人物を副局 長のポストに入れろと…しかも推薦した奴よりによって情報局に向かないボンクラだぞ」 「まぁゲーレンはその脅しに屈服することなく『俺のケツをなめろ』と言って叩き返したそうだ」 「…捕まらないのか?」 「いや、総務統括官の宗方中将や局の主要幹部がゲーレンのバックについているし、ゲーレンやシェルドンを 逮捕してみろそれこそ情報局の主要要員が怒り狂って辞表叩き付けるぞ」 「そうなると不味いな…しかし新設部隊の予算における内容見ろよ」 「何々…資材、機材は最新鋭、配備される戦闘部隊はあのエースオブエースと名高い高町なのは一等空尉を始めとする超絶優秀組」 「うがぁ!こっちは少ない人数と中古の機材でなんとかやりくりしているぞ、贅沢言いやがって」 「しかも地上本部で優秀な人材の引き抜きまで行っているぞ、ヴァイス・グランセニック陸曹と市川守二佐もだとさ、 後者は創設となえた八神はやて二等陸佐の推薦だとさ」 「前者は兎に角、後者はレジアス・ゲイズ中将の戦友で陸戦課の最重要人材の一人だぞ」 「不味いなぁ…しかし三提督の恩恵受けているとすぐこれだ」 「クーデター起こしてぇ」 「まぁ気持ちは分からんでもないがな」 ―――はやて本人達も時空を守る為に必死になっていた事は確かだ…だがそれに伴う犠牲(予算削減) や今までの鬱憤が後にある勢力にとって悲劇の幕開けとなる。 ――――情報局 「で、予算はこれか」 シェルドンは情報局に回された予算を見て呟く、数値には去年の予算より削減されているのだ。 「何が、『新設部隊の予算確保のために少し削らさせてもらいます』だ!ふざけやがって!あいつら (魔法至上主義者)の息のかかった部署の予算全然削られていないじゃないか!」 シェルドンは怒り狂っていた、重要な情報局の予算を減らすとはどういうことか、ジェイル・スカ リエッティの行動は兎に角、最近管理局の最大敵対組織と言える『セプテントリオン』の動きもこ こ最近活発化し始めているのだ、その情報を得る為にもなんとしても予算の増加は必須と言えるの に、予算を削るとは一体何を考えているのだ。 「だが…これでもまだマシなほうだ」 ゲーレンはもう一つの表を見せる、その表を見てシェルドンは息を呑む。 「こ、これ本当ですか?」 「ああ、本当だ。宗方中将の口添えや、その部署からの支援がなければこうなっていた」 その表には情報局に回されるはずだった予算は去年と比べて凄まじいほど減額されていた。 「そんなに気に食わなかったのか?提督派の人材を副局長のポストに付けなかった事が」 「シェルドン、本気で言っているのか?」 「…分かってますよ、ボンクラにポストついてもどうせ妨害する気は満々ですし、こちらの保持し ている重要情報があいつらに流れてしまいますよ」 そして呆れたようにゲーレンは言う。 「もうどうにもならないなあいつら、自分達が管理局のすべてだと思っている」 「だからこそ…宗方の企てに加担しているのでは」 「ああ、そうだな」 ―――――本局 宗方の部屋 「訓練場所の確保が出来たか、うん上出来だ、管理外の無人世界うん流石だ、揉み消しはまかせ てくれ」 宗方中将と斎藤中将との通信を切った、そして居並ぶ将校に不気味な微笑みを浮かべ告げた。 「対ジェイル・スカリエッティ用特殊部隊の訓練場所の確保が出来た」 それにニヤリと笑う夏目二佐とライカー一佐、ただベイツ二佐は渋い顔をしていた。 「どうした、ベイツ?」 ライカーはベイツに問うた。 「これで正しいのでしょうか?味方すら犠牲にしてまでここまで行う行為に… 確かに今の三提督もその取り巻きの横暴は目を被うばかりです…かといって」 「かといって、そこまでやる必要があるのかと…」 「はい」 宗方は真剣な表情を見せて、一切れの紙を取り出し見せた、その紙を見たベイツは仰天した、その紙に書かれているのは あの聖王教会の教会騎士団カリム・グラシアの保持するレアスキル『プロフェーティン・シュリフテン』、預言者の著書という 意味の成すとおり完全とは言わないが未来を予言出来るというスキルだ、その内容はこうだった。 「古い結晶と、無限の欲望が集い交わる地。死せる王の元、聖地よりかの翼が蘇る。死者たちが踊り、なかつ大地の方の塔は 空しく焼け落ち、それを先駆けに、数多の海を守る法の船も砕け散る」 と…それは明らかに時空管理局そのもの崩壊を予言したものであった 「ですがこれはよく当たる占いと…」 「確かにそうは言われているが…情報局が掴んだジェイル・スカリエッティに関する情報だ」 宗方はモニターを操作し、情報局が掴んでいるジェイル・スカリエッティの状況を纏めた物だ、それベイツは驚いた、 予言と類似する点が多数存在したのだ。 「八神はやてが述べている機動6課構想もこれに発端している」 「では彼女達に任せておけばよいのですか?人材は見たところ優秀です」 「確かに、致命的な面がある」 宗方は厳しい顔でベイツを見つめる、そしてベイツは分かった。 「…ベ、ベテランが市川二佐ただ一人!」 「そうだ、彼女達はあまりに後方を軽視している、そして慢心しているよ自分達の実力に、そしてやり通す意思はあるが致命的な面それは…」 「『殺』というわけですか?」 「ああ、そうだ彼女達は殺す事にすごく臆病だ、市川二佐を除いてね。ああ、ヴォルケンリッター?ああ、今は八神はやて二佐の忠実なる僕、もう牙の抜かれた犬だ」 宗方は素っ気無く言う。 「つまり、中将、貴方が考えているのは」 「最後の保険であり同時に局に対して意識改革、ならびに未だに強大な発言権を手放さない三提督とその取り巻きの排除だな」 「そうですか、分かりました…しかしミッドチルダは地獄になりますね」 「地獄か…あの時よりはマシだと思う」 「あの時とは?」 「クリムゾンバーニング…あの地獄はもうコリゴリだ」 宗方は虚空を見据える、あの戦争、とある独裁者の下らない理由で起きた世界を巻き込んだ戦争、 凄まじい死者と破壊を撒き散らした後に出来たのはただ広がるは破壊された都市や自然・・・宗方 は歯を噛み締めた。 「しかし、何故多大な成果を上げた三提督がこうも歪んだのでしょう?」 ベイツの疑問は最もだ。 「ベイツ二佐、人は大きな権力を握ってしまうと自然と腐り始める、それが過去に大きな成果を上げ、英雄と呼ばれたものたちでも …甘い蜜の味を覚えた人が苦い蜜を再び舐めるか?」 リリカルなのはストライカーズ・エピソード4 「黄色い悪魔」 ――――リッチェンス邸 市川はMP5の初弾を装填し、構えると敷地内に侵入した。すぐに低い姿勢をとる。視線と銃口 を周囲に向けた。人影は居ない。リッチェンスの手下どもは表門での戦いに駆り出されているらし い。だが市川は気を抜かなかった。庭に植え付けられた樹木や庭石に身を隠しつつ、屋敷の北側へ 進む。動作は素早いが、足取りは慎重さに満ちていた、市川は熱い闇に融けつつ前進した。 僅かに発汗しているのは、内心抑えがたいほどの興奮で満たされているからだった。このような環境こそ、 市川の生きる場所なのだった。彼はそれを実感した。 どやどやと表現するしか他ない騒音を立てながら4人の男が視界内に現れた。どうやって反応すべきか、 市川はコンマ一秒以下の時間で勘案し、決断した。MP5を彼らに向け点射を行った。無音に近い 銃弾を受けた男達は3秒で全員が絶命した。市川は足取りを早めた。屋敷の北側に到達し、周囲を確認し安全を確認する、 バッグからC4を取り出し壁に貼り付け信管を作動させる。右側から叫び声が上がった。 「野郎、こっちだ!殺せ!」 市川は足の筋肉を聞かせて低く飛んだ。空中で身をよじり、声のした方向に射撃する。着地前に弾倉は空になっていた。 匍匐前身で庭岩の影にもぐりこみ弾倉を交換した。銃声が響いた、周囲に着弾はない。市川は口を歪めた。あの莫迦どもは、 屋外で短銃身の散弾銃を使用している。爆発が発生し、壁が吹き飛ぶ、それを見た市川は閃光手榴弾を取り出し、 射撃をしている男達へと投げつけた、地面にしっかりと伏せ、瞼を閉じ右目を手で被った。小さな爆発音が起こり闇が白くなった。 悲鳴がいくつも聞こえる、そうした声を上げる元に市川はMP5を向けた。弾倉を二個消費し、全員を射殺した、 そして壁穴に破片手榴弾を放り込む…爆発、内部を銃弾で軽く撫でると邸内に突入した。 ―――邸近く 「何が起きているの?」 ギンガ・ナカジマはうめいた、ギンガによって正門の一部を砕く事に成功した、そして警察や局員がそこに向かって突入しようとしていた、 そんな中裏門の所から再び爆発音がした。 「裏門に警察か何かいますか?」 ギンガは警察部隊の隊長に通信を送る。 「いや、そちらにはいないはずだ」 「では一体誰が?」 「分からない、少なくともリッチェンスに対して何かしら恨みを抱いている連中かもしれん、こちらから何名か派遣する、 君はこのまま正門突入を行ってくれ」 ギンガは隊長からの要請に応じた、今そんな事を考えている余裕はない、今出来る事を成すだけだ、 リボルバーナックルからカートリッジを再び打ち出した、ギンガは決心したように空いた壁の中に突入しようとした。 ―――邸裏門 「全く派手にやりすぎだ」 副長はぼやく、地面には警察官と思われる数名の男女が地面に倒れていた。 そうレジアスの命令を受けた二人は市川を支援する為あえてこちらにやってくるであろう 警察や局員の阻止を行っていたのだ、副長は呆れ顔で煙を上げている裏門を見た。 「彼らしいと言えば彼らしいか」 スナブノーズもぼやいた、全く平和なクラナガンで戦争を起こせる御仁なんてあんたぐらいだよ市川二佐。 ――――邸内 部屋の中は破壊し尽くされていた。部屋には大きな布団が敷かれている。そこには血濡れになった筋肉の塊が二つ、 横たわっていた。二人とも裸だった。恐らく「ウホッ!」な趣味の持ち主同士が周囲の状況に気づかずに居たらしい。 上に居る男は死んでいたが、組しかれた姿勢の男にはまだ息がある。男は左手に包帯を巻いていた、市川は男に銃を向けた、尋ねる。 「すまないが、教えて欲しい。私の娘は何処に居る?」 男は恐怖に大きく目を見開き、市川を見つめた、市川は微笑を浮かべもう一度問うた。男は答えなかった。市川は僅かに眉をしかめ、 長靴で男の左手を踏みつけた。男は悲鳴を上げた。市川は言った。 「頼むから教えてくれ」 「ひ、左側の…い、一番奥だ」 「ありがとう」 市川は男の頭に銃弾を送り込んだ、頭蓋の中身がスイカのように飛び散った。 市川は半壊した扉を蹴破った。銃声が響き、弾が空気を切り裂く音がした。 着弾音が左右のどちらかで生じたかを確認した市川は狭い通路の左側へ閃光手榴弾を投げた。 そして絶叫があがり、何かの拍子でこちらに滑ってきた銃を見て市川は顔を顰める、 AK-47、作りやすさやメンテナンスが簡単な事で97管理外世界だけではなく、 他世界でも製造されている自動小銃だ…だが室内で自動小銃を使用する事は自殺行為だ (跳弾の可能性が高い)、恐らく閃光にやられてAKを落としてそのまま暴発したのだろう。 「ド素人だな」 市川は呟くと念のために左右を掃射した。そして散弾銃の持った男が飛び出してきた。 市川は通路の端に身を押し付けるようにした。男が発砲した、頬を小さな鉛球が撫でた。 妙な金属音がする。散弾をまともに浴びたMP5のサイレンサーと銃身が破壊されたのだった市川は反射的にMP5の残骸を捨て、 ククリナイフを抜いた、通路が狭いため、下から救い上げるようにしてそれを相手の喉にめり込ませた。 オリハルコンで強化されたククリの刃は呆気なく男にめり込む、すぐに引っ込める。喉から大量の血を噴出しつつ男は倒れた。 市川はククリナイフをさやに治め、不要となったMP5の弾帯を捨て、男の散弾銃を拾い上げる。安物だった、弾はまだ一発残っている。 男が飛び出してきた通路の過度の先から足音と罵声が聞こえる、市川は破片と閃光手榴弾を一個ずつ取り出し、同時にピンを抜く。 足音が接近するまで待ってから一気にニ個の手榴弾を投げた、目を閉じ、耳をふさぐ。爆発、悲鳴、閃光、怒声、爆風。 市川は僅かに顔を出し、通路の先を確認した。狭い通路には十名ほどの人間が倒れ、うめき、もがいていた。破片は数名にしか影響を与えていないが、 閃光は全員の視力を奪っている。市川は散弾銃を構え銃口をいくらか下向きにして発砲した。空中に飛び散ったいくつもの鉛玉は、 通路の固い床に跳ね返されながら、傷を受けていなかった男達の足元を襲い食い破った。散弾銃を捨てた市川はホルスターからベレッタを抜き、 一人一人の頭に9ミリ弾を送り込み、一番奥に居た男を除く全員を殺害した。 最後の男は腹と足に散弾を受け、床でうめいていた。銃は失っている。 墓石のような瞳にはようやく視力が戻りつつあった。彼は市川を見上げ、うめいた。 「あんたか」 「理由は説明するまでもあるまい。リンデマン君」 「まぁな」 リンデマンは通路に視線を向けた。そこには血とコルダイトの匂いに満ちた空間だった。 「ひどいものだ」 「私はもっと酷い場面を見た事がある。いや、作り出した事がある、というべきか」 「悪魔だよ、あんたは」 「自分でもそう信じ始めていたところだ」 リンデマンは楽しそうに笑った。顎で通路の先を示す。 「二つ先の部屋だよ」 「ありがとう」 「何、あそこであんたが見るものに比べれば、対した事じゃない」 「かもしれない。さようなら」 市川はリンデマンの額にベレッタの銃口を近づけると、トリガーを引いた。飛散した血液と脳漿が彼のバリアジャケットを汚した。 扉は硬く占められていた、市川は破片手榴弾を取り出し、ピンを抜いた。扉からいくらか距離をあけた床に置く。 後方へと駆け戻り、リンデマンの死体を起き上がらせて盾にした。爆発、爆風。 ボロボロになった扉の手前で立ち止まる。右手にベレッタ、左手にククリを握る、室内から音は聞こえない、 長靴で扉をけった。扉は室内に倒れる。市川は中へと飛び込んだ。銃声がおこった。右脇腹に焼け付くような痛みが走った。 市川は床を転がり、銃声のした方向へ、ベレッタで反撃を加えた。人影が崩れるのが分かる。市川は立ち上がった。華やかな飾り付けの施された部屋だった。 部屋の置くには大きなベッドがあった。腹を打たれたリッチェンスはベッドの端に上体を預けていた。ベッドの上には全裸に近い若い女が居た。 「やはりね」 口元から血を流したリッチェンスが言った。 「最初はただの警察との押し問答かと思ったが」 「丁寧な出迎え、痛み入る」 「あなたも盛装だな」 リッチェンスは微笑した。彼はダークスーツを着込んでいた。 「何、貴方だと検討が付いた時に着たのですよ、二佐。慌ててね。それまでは裸でした。 押し問答ならば、私が顔を出すまでもないですから」 「うん、貴方が評価すべき一面を持っている事は確かだ。少なくとも、娘をただの玩具にしていたわけではない事は理解している」 「良かった、貴方のような男に軽蔑されるだけは御免ですからね」 「それよりは憎悪の方がマシだ、と?」 「そんな所です。少なくとも、憎悪は積極的な感情ですから。貴方の娘さんも、 ただ自棄と悲しみだけから私に抱かれたわけではないのだと信じています。ええ、そう私は信じています」 市川はわずかにうなずいた。 「まさにそうかもしれない。貴方とは別の場所で会うべきだったな」 「私もそう思います。残念です」 「同感だ」 「それから、二佐」 「何だろうか?」 「この部屋の奥には誰にも見られずに敷地の外へ出られる扉が有ります。御帰りの際は、 宜しければそちらを使って下さい。これ以上、死体を作り出す事もないでしょう」 「感謝する」 「ああ、それにもうひとつ」 「窺おう」 「今度こそ彼女を幸せに」 市川は微笑した。 「娘を大事にしてくれて有難う。貴方の期待は裏切らないようにしたい」 「それでは」 「ああ。いずれ我々が会うべき場所で、また」 市川はククリをリッチェンスの頭頂部に振り下ろした。女に視線を向ける、右脇腹がしきりに痛ん だ。女の顔は恐怖と涙に引きつっている、生々しい情交の残滓や失禁などで汚れてはいた…が彼女 は美しかった。愛らしかった。父親たるとはこういうことなのかと市川は思った。残酷な真実は常 に絶望と憎悪を生み出すわけではないのだった。恐怖に震えていた女が幼児のような声を出した。 「お父さん?」 微笑を浮かべた市川は小さく頷いた。 「お父さん」 市川の娘は新たな涙を流しながら立ち上がった。震える声で彼女は言った。 「おかえりなさい」 「ただいま」 黄色い悪魔は優しげに答え、これほどの現実を目撃した後であれば父親以外には不可能な反応を示 した。愛すべき愚かな娘を強く抱きしめたのだった。 ――――裏門 市川が娘を連れ出して、敷地の外に出たタイミングを見計らってフレイザーの車がやってきた。 「急いで下さい、正門でドンパチ行っていた警察と108部隊が屋敷に突入しました」 市川は娘と共に車に乗り込んだ そして落ち着いてからフレイザーは問うた。 「二佐、戦争は無事終結しましたか?」 「ああ、戦争は無事終結した、こちらの圧倒的勝利で…」 ――――裏門への道 警察官や局員が一斉にリッチェンスの屋敷に突入した、それと前後して裏門で起きていた銃声や 爆発音はパタリと止んだ、そして裏門に回った警察官との連絡が取れないことに疑問に思ったギ ンガは自ら志願して裏門に回ろうとした、そしてギンガは発見した、裏門から逃げようとする車を、 それがリッチェンスなのか襲撃者なのか分からない、だが少なくとも重要参考人として認識したギ ンガはその車を追おうとした、そしてウイングロードを展開し、追撃しようとしたその時、目の前 にフェイスガードで顔の見えない巨漢が現れ、ギンガに向かって拳を打ち込んだ、咄嗟の判断が出 来ないギンガの鳩尾に拳がめり込む…ギンガの意識は吹っ飛んだ、だが吹っ飛んだ方が幸いだった かもしれなかった、そう屋敷の中は悪魔によって生み出された地獄そのものだったからだ。 ――――同 「戦争は終わったようだな」 「ええ、そうですね」 スナブノーズは気絶させたギンガの体を地面に寝かしつけた。 「我々も引き上げますか」 「ああ、そうだな」 スナブノーズはレジアスに連絡を入れると副隊長と車に乗り込みその場から去った。 ――――屋敷 「全く酷い有様だな」 ゲンヤ・ナカジマはリッチェンス邸内における惨状を見て呟いた、銃弾で負傷した者はいたものの、 幸い死者は出なかった。屋敷に突入した警察官や局員達が見た光景は凄惨な光景だった、血とコル ダイトの匂いに吐くもの、手足が千切れ飛んでいたり、臓物がぶちまけらた光景は地獄と言って いいだろう、それに耐性のない者達は皆吐いている…ミッドチルダではほぼ見れない光景、明ら かに質量兵器を使用したものであった。これを行ったのは一体誰なのであろうか、ゲンヤは悩んだ、 娘のギンガもその真相を知ろうとしたが気が付いたら地面に寝かされていた。そしてゲンヤは警察 や地上本部にとって宿敵であったリッチェンスの死体と対面する、リッチェンスの頭部は刃物を振 り落とされたのか脳漿が出ていたものの、顔は安らかでどこか嬉しそうだった。 何故、そんな顔が出来る?リッチェンス?…ゲンヤは物言わぬ死体に問うた。 ――――騒動翌日 地上本部 レジアス室 「…リッチェンス氏が行っていた密輸業が(以下略)…そして昨日警察と管理局の108部隊が リッチェンスの屋敷の強制捜査に踏み切り、突入しましたが何者かによってリッチェンス氏は殺害されており、 管理局ならびに警察はその襲撃犯の割り出しに全力を…」 モニターに映るニュース映像を消すとレジアスは襲撃犯に語りかける。 「全く君はとんでもない事をしてくれたよ、このクラナガンで戦争を起こすなんて」 呆れ顔のレジアスだったが襲撃犯は全く淡々としていた。 「だが…少なくとも金の魅力に虜になっていた馬鹿ドモの逮捕に繋がる事が出来たのは評価出来るな、市川二佐」 市川は礼を言った、そしてレジアスは本題を言う。 「君と言う男は…まぁいい、今回君の起こした行為は私の権威を持ってもしても揉み消せないのだが…どうやら本局にお前の事を評価する人間が居るらしい、 そいつのお陰でお前は其の日、クラナガン近郊の自宅でノンビリしていたというアリバイを作っておいた」 「ありがとうございます」 「市川二佐、その右脇腹完治の為の療養とほとぼりがさめるまでしばらく娘と共にクラナガンから離れて欲しい」 それに市川の顔が曇る、そう約束していた… 「機動6課の事は諦めてくれ、人事部も貴官の配属に猛反発した、すまないな」 それに渋々了承する市川、そして市川は言った。 「中将、貴方の事ですから八神はやて二佐などによい感情は持っていないと思いますが、出来るだけの協力をお願いしたい、 彼女達もまたミッドチルダを愛していますから、これは戦友として貴方に願っているのです」 「わかった、君の希望にそうようにする」 「ありがとうございます、では…」 市川は綺麗な敬礼を送ると退室した。それを見てレジアスはほっとした、少なくとも市川が最高評 議会によって殺される可能性が低いからだ(評議会もリッチェンス襲撃事件の犯人を知らない)、そ して写真を眺め、思い出に浸った…戦友達と共に戦場をくぐりぬけ笑いあったあの日を・・・ ―――通路 「まさか、クラナガンで銃撃戦が起きるとはね」 「今でも信じられないよ」 「しかし、あのリッチェンスさんがまさか密輸やってるなんて、世の中わからへんなぁ」 なのはとフェイトとはやても昨日の出来事の話題で盛り上がっていた、彼女達もリッチェンスが行 っていた慈善事業の事を知っているからこそ驚いたのだ。そしてこちらに向かってくる男を確認し、 敬礼する、男も敬礼する。 「「「御疲れ様です、市川二佐」」」 三人に対して微笑みながら市川ははやてにすこし要件があるから来てくれないかと言った。 「ええ?それってデート?それとも婚約について?いやぁ~市川二佐うちまだ心の準備出来てないし~~それに年離れすぎやないか」 と冗談をとばすはやて、それに微笑を浮かべる市川、そんなこんなで二人は誰も居ない一室に向かう事になった。 ―――― 一室 「はやて、実は…」 市川の切り出した事、それにはやてはショックを受けた、そう市川は機動6課に配属する話がおじ ゃんになったのだ、理由を問うはやて、そして市川は真実を言った。昨日のリッチェンス襲撃犯の 犯人が自分である事、レジアスがその事をもみ潰した事。 「な、何でそんな事をするんですか!」 はやては非難めいた口調で市川を問いつめる、目の前の男がとても襲撃犯に思えないからだ。そし て市川は何故それを行った理由を言った、娘の事を…そしてはやてはショックを受けた自分が何故 このことを知らなかったのか、そして何故教えてくれなかったのか、それに対して市川は君にまで 心配を駆けたくなかったから、君も家族と変わらないから(一時期はやては市川の家で世話になっ た)…と、そうしていくうちにはやてはこの男を批判する事が出来なくなる、大事な存在を守る為 に、親として自分が成せる事、はやてにとっては羨ましかった、市川の娘が… 「市川さん」 はやては真剣な表情で市川を見る 「私を抱きしめてくれませんか、6課入隊出来なかった代償に」 突然の言葉に動揺を隠せない市川。 「一度でいいんです、うちを抱きしめてください…その…私は…あの無理でしたら…」 珍しくはやては言葉に詰まった。市川は理解した、そうかこいつは…そして市川は行動に移った、 はやての細い身体を、小さいながらも大きい体で優しくそして力強く抱きしめた。父親が娘や息子 を抱きしめるように…そしてはやては一筋の涙を流すと呟いた… 「お父さん…」 はやてはもう忘れた父の温もりを感じたような気がした。 「もういいか?」 「はい!」 はやては吹っ切れたように言う。 「市川二佐有難うございます」 「ああ、八神二佐も隊長として頑張れよ」 「はい!」 二人は敬礼を行った後、それぞれの道の為に別れた。 ――――機動6課成立少し前の話である。 まぁ、レジアスが若干6課に対して協力的だったり、オーリスがはやてに刺のある態度 で接しないというのはまた別の話 そして――― 「間違いないな、あれは『聖王のゆりかご』だな」 「手はずは整った、後は彼ら次第だな、防衛ライン並びに研究所突入班、藤井のドレッドノートは?」 「既に配置についています」 「では作戦開始、奴らに血の代償がどれだけ高いか教えてやれ」 「目標はスカエリッティ研究所に居るジェイル・スカリエッティの確保そして…」 「ナンバーズと呼ばれる戦闘機人は?」 「言うまでもないだろ」 「そうだな…」 「では行くか、市川一佐」 「総員搭乗急げ!」 「目標、聖王のゆりかご」 「全VLSにミサイル装填完了、発射…5…4…3…2…1…スパーク!」 「フォイヤ!」 「まさか、ミッドチルダで質量兵器が使用される戦争が行われるとはな…」 戻る 目次へ 次へ
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――――本局のある将官達の会話 「うげ、新設部隊の為こちらの部署の予算削るんだとさ」 「嘘だろ、ただでさえこっちの部署は予算不足でピーピー言っているんだぜ」 「どれもこれもすべては3提督やとりまきの口添えだとさ」 「うがぁー、あの老害め、いつまで居座ってやがんだ!」 「おい、本局で滅多なこと言うなよ、カナリスの例知っているのか?」 「ちくしょ~~、ここは何処の独裁者国家だよ」 「しかもあいつら例の3名を自分の後継者にするんだとさ」 「けっ!結局は魔法至上主義の影響力残したいだけじゃないか、いたいけな少女達をだまくらかしやがって」 「例の対ガジェットを想定した特殊部隊ねぇ、高レベル魔道士はイパーイ」 「予算はいたれりつくせり、しかも本部でさえまだ配備されていない最新機材配備だってさ」 「だから、陸戦課は怒り狂っているよ、レジアスに気持ち分かるわ」 「「「「「「「「「「「やってらんね~~」」」」」」」」」」」 ―――時空管理局本局一室 「宗方になにか動きはないのですか?」 リンディ・ハラオウンは、情報局局長のラインハルト・ゲーレンに問うた、会議が終わった後に宗方の部屋に 斎藤中将子飼いの部下佐藤大輔三佐が入ったことに何か疑念を感じたからだ。 「ええ、彼は彼の任務を着々とこなしているだけです、レリックの件もありますがそればかり構っていられる ほど時空間に暇はありませんから」 「そうですか」 リンディはホッとする、ゲーレンは有能であることはレンディも認めている。正直彼女は宗方が何を 企んでいるのか全く分からないし、何せレティに至っても「宗方?あいつは何考えているのか分からん」と言われるほどだった。 「ああ、それと例のレリックと共に現れるガジェットの件ですが、犯人の特定は出来ましたか?」 「いいえまだ特定出来ていません、現在割り出しを急いでいます」 「そうですか…」 しかし宗方が例えどう行動とって損害を与えても結局は管理局の益になるばかりだから迂闊に口出し 出来るはずもないが…まぁもし彼の考えを知ったら、速攻彼の逮捕へ向かうだろう?何故だって? だって彼の考えは新暦における管理局の根底を覆すうえに、下手をすると自分の娘たちをあの世に送る行為なのだから… 彼女がそれを知るのは到底無理だろう、何故ならすでに情報局主要幹部全員(有力な提督派のスクライア一族は叩き出している) が宗方派であるからだ。そして通信がきられ、ゲーレンはタバコを取り出し火をつけ、吸い、煙を吐く、一息ついて呟いた・・・「馬鹿め」 それは何も知らないリンディの事だろうか?それとも管理局そのものなのか?それは彼にしか分からない。 ――――時空管理局情報局一室 「たいした役者だよ貴方は」 呆れ果てた様に、ハンティトン・シェルドン副局長はゲーレンに言った。 「敵を騙すにはまず味方と言う諺があったはずだが?」 「ああ、それはそうですね、しかしまぁ…貴方も中将(宗方)とグルになっていると知っていたら彼女いや…上層部はどういう顔をするでしょうね?」 「そんな事私にとって何も価値はない」 ゲーレンは素っ気無く言う、毎日膨大な書類相手に何でそこまで相手にしなければならないのか、 彼の偽らざる心境だった、まぁゲーレン(とシェルドン)も現在の未だ(さっさと引退すればいいのに) 巨大な発言力を保持する三提督とそれに便乗するとりまき、とりわけ魔法至上主義者には心底うんざりしているのだ。 「所で、例のガジェットの対抗手段は?」 「捕獲したガジェットに対する実験では、普通の拳銃弾でも機能停止に持ち込めますよ、ま、あのサイズである程度の武装を供えた上に、 多少の機動性の保持、そしてAMF発生する為の発電(魔力)装置、そうすると必然的に直接装甲は最低限なものになります、まぁスカエリッティは AMFで大丈夫だろとタカくくっているそうですからね」 「つまりワンショットライターというわけか」 「まぁそう言うことですよ」 「スカエリッティもとんだ道化だな」 「自分が管理局本部を手の平で操っていると思っても、結局自分も踊らされている・・・」 「哀れだな」 そしてゲーレンは宗方に機密通信回線を繋いだ。 ―――――管理局本局 宗方部屋 「ふむ、まだリンディ総務統括官が私の動きに疑問を抱いていると?」 「ああ、まぁこちらが知らないといったらあっさり納得した」 「そうか、だが場合によっては提督派の情報局局員に内偵を行うかもしれん」 「えらく弱気だな」 「小さな穴が時に大きな穴になるきっかけを作る」 「確かに…まぁそういった局員は管理世界に飛ばしているし、こちらには二重工作者である沖田静がいる、フン、 三提督派の莫迦共はまんまと騙されている」 「ふ・・・わかった」 「私も管理局の腐敗に目を被うばかりだ、其の為にお前にあえて機密情報を流している…だから…お前に賭けている」 ゲーレンは嘆くように宗方に言う、確かに尊敬でき、尚且つ恩師であるヴィルヘルム・カナリスを辺境に飛ばした挙句 死なせた事に深い恨みを持っていた、しかしゲーレンの嘆きは情報という重要的存在を蔑ろにし、あまつさえ折角得た情報を握り潰したり、 時には自分達の成果だと喚くアホ共に心底うんざりしていた、だから闇の書事件だけではないPT事件でも早期に警告したにも関わらず、 御偉方が無視したせいで(優秀な魔道士2名確保したとはいえ)危うく大惨事になる所だった。其のことについて宗方は知っていた。 「ところで、あのスカエリッティについてだが…いつか犯人割り出しを発表しないと、やばいぞ」 「言われるまでもない、なに、局の御偉方にも何名かスカエリッティのやっていることを黙認している奴がいる、 そいつらに情報をわざと流させて、意図的に妨害させる」 「そしてすべてが終わった時に情報局の失態はそいつらに転化されると言う事か」 「ま、そういうことだな」 「だが、これから先はどうなるか分からない、歴史は常にどう動くかわからない」 「お前のことだ、いくつかの手段は想定してあるだろ」 「当然だ」 「お前らしいな」 リリカルなのはストライカーズ エピソード 「黄色い悪魔」 ―――道中 「あれ?」 はやてはフェイトが運転する車の助手席で見た対向車に市川がいたことに疑問を思い浮かべた、 たしかエルセアにある亡き妻の墓参りするって聞いたんだが…まぁ彼には彼の事情があるのだろう、 はやてはそう思った、だがもし市川がこれから行おうとする事を知ったら間違いなく彼女は有無言わずに彼を取り押さえようとして …殺されただろう。 ―――時空管理局施設某所 市川が目的の場所についたのは夕暮近くだった。そこはクラナガンから隔離されたように周りを森で覆われた中で ポツリと建てられていたが重厚なつくりの建物だった。そして身分証を提示し、かつての部下を呼び出させた、 小走りで掛けてきたかつての部下は彼の車へ乗り込んだ、そして市川は言った。 「頼みたいことがあるのだ」 「二佐のおっしゃることならばどんなことでも」 カリウス曹長は答えた、十年程前に、カリウスは市川に人生を救われたことがあった。 「君は今、押収質量兵器の管理をやっているはずだな」 「はい、ほとんど倉庫に放り込んであるだけで、いい加減な物です。誰も、何がそれだけあるか知りません、 そのおかげで仕事のストレスが溜まった局員が憂さ晴らし場所ですよ」 まぁつまり、ストレスが溜まった局員が射撃場で押収した質量兵器をぶっ放して憂さ晴らしを行うある意味知る人ぞ知る、 リフレッシュ場所だ。(実はゲイズやゲンヤも愛用していたりもする) 「いくらか融通してもらえないか」 「理由をお尋ねしても宜しいでしょうか?」 「犯罪ではない。少なくとも私はそう信じている。可能な限り、君に迷惑をかけないように努力する」 カリウスは市川の横顔に視線を走らせた。任せてくださいと答える。彼も、かつての上官が抱えて いる個人的な問題についての噂話を耳にしていた。そして二人は押収兵器が治められている倉庫に 向かい、中に入った、そして武器特有のあの油臭い臭気が鼻をついた、そしてどの武器を必要かカ リウスは問うた。 「そうだな、短機関銃はサイレンサー付きMP5、弾倉は10個、拳銃は同じくサイレンサー付きのベレッタMF92Fこれも弾倉10個、あるか?」 「ええありますよ、97管理外世界の質量兵器の優秀さは他世界より群を抜いています」 それを勝手にコピーした反管理局組織によって酷い目に会った連中は沢山いますよとカリウスは言 った。 「手榴弾もほしい、破片型と閃光型とをあわせて10個ずつ出来れば音響も一つか二つ」 「もてますかね?」 「体力は落ちてない」 「了解」 「それとC4と雷管、2つくれ」 武器を袋に納めた二人は射撃場に向かった。誰もいない射撃場でMP5、ベレッタ、を取り出し試射を行う、 修復しつつとはいえ片目を失ったのは痛かった、かつてなら五〇メートル先にでも拳銃弾を標的の中心に 収束させることが出来たが、今では15メートルが限界だった、MP5は…まぁ言わなくても分かる、 試射と分解組み立ては1時間で終わった。 「すまない、しかし私は責任をとらねばならない。無論、おろかな行為だと言うのは分かりきっている」 「貴方は局法会議にかけけられそうになった3等陸士を救ってくださいました。とてつもなく愚かな事をやらかした莫迦な下士官を、 それがもし親族ならば、ええ、当然と言ってもよいと思います。どの道自分の局歴は、二佐、貴方に貰ったものなのですから」 「ありがとう」 「貴方からその言葉を与えられること、それに勝る光栄はありません、二佐」 ああ、それから、ずっと御預かりしていたものをお返ししますと刃が少し曲がった、刃渡り60セ ンチぐらいの刀、ククリナイフを取り出した。それにほぅと市川はうめいた、そうSAS時代に銃 弾を喰らって動けなくなったグルカ人を助けた際に譲り受けた業物だった、それからこのククリと は任務で市川の助けとなり、多くの命を奪っていった。そしてそのククリナイフはよく磨がれて いた。そして二,三度振り回した、貴方の帰りをお待ちしていましたといわんばかりに手に馴染んだ。 「ミッドチルダにおいて絶滅したと言ってもいいマイスターと呼ばれる鍛冶屋を探し出して磨ぎ直してもらいましたよ」 「随分と軽い感じがするな、そして刃がちょっと違うな」 「ええ、持ち出したオリハルコンを使用しています」 「ほう」 「本来なら違反ものですけど、何それぐらいゲイズ中将は握りつぶしてくれますよ」 「中将には世話になりっぱなしだな」 「まぁ共に戦い続けた戦友に対する礼儀ですよ、ああ、並のAMFぐらいや最近現れたガジェットぐらいなら簡単に切り裂けますよ」 「ああ、そうだなそんな感じがする」 そして市川は自分のバリアジャケットを着込んだ、平服で戦場に向かう気にはなれないからだ。そして彼はバリアジャケットのデータを改竄し かつて自分が所属した特殊戦隊の軍服にアレンジする、そして鏡の前に立ち自分が服装規定を満たしているか確認した、背筋を伸ばす、 胸につけられた様々な略綬が士官として自分がどのような人物であったか証明した。無数の栄光と勝利。義務への献身。管理局への忠誠。 ただ一人の娘を救えなかった父親が勝ち得た様々なもの。そして市川は軍帽を丁寧にかぶり、黒い眼帯をはめた黄色の悪魔の姿を映し出された。 市川は背後を振り向いた。カリウスが敬礼を送った。彼は答礼した。二人は別々の射撃場から出た。 ―――施設外 市川は衛兵に答礼し、車で営門を出た。後席には武器弾薬の詰まったバッグが置かれていた そして営門のそばに車が停車していた、市川は其の前に自分の車を止め外に出る、そしてフレイザーも外に出た。 「酷い人ですよ貴方は…一応貴方につけた人はクラナガン警察において一番の腕利きと太鼓判押した人のですがね… まぁ軍属には適わないと言うことですか」 「まぁな、しかし私は娘に会わねばならないのだ、例えそれが管理局を裏切ってでも」 「正直に言ってはどうです。この時空管理局本部がおかれているクラナガンで戦争を始めたいと」 それに対し市川は断固たる口調、むしろ悲鳴に近いほどの感情をこめた声で言った。 「君は誤解している、始めたいわけではない。終わらせたいのだ」 「可及的速やかに?」 「可及的速やかに」 フレイザーは悲しげな微笑を浮かべ、運転は私がしますと言って市川の車に乗り込んだ、そしてフレイザーは助手席の市川に兵隊言葉で尋ねた。 「で、二佐、指揮官の構想は?」 「私の目的を果たすと同時に、君にも礼をしたい」 「なるほど」 「まず、リッチェンス氏の指揮下にある人間を一人、調達せねばならない」 「了解」 「君は構わないのか」 「私にもあれこれと考えるところがあります」 「そうか・・・」 市川はある場所に殺気を込めた視線を送った、それに疑問を抱くフレイザー 「どういたしましたか?」 「何、ちょっとした鼠がいたような気がしてな…では行こうか」 フレイザーは車を発進させた。 ――――茂み 「やっぱバレてたなぁ…適わないなぁ」 狙撃銃型デバイスを構えていた伊達英明二尉は呟いた 「はぁ、やっぱ4年収容所に放り込まれても、殺気を感じる感覚は衰えないか・・・」 補助兼その他役の伊達と同期の田宮秀司二尉も感嘆そうに呟く、彼らが宗方から受けた任務は可能であれば市川の阻止、 無理ならしょうがないといった任務であった、そして田宮は連絡を入れる。 「阻止失敗、後は天に祈るのみ」 ――――本局 「やはり、伊達では彼の阻止は不可能か…」 宗方は呟く…そして行動に乗り出す、市川が成すべき任務を終了した後の事を沈静化するための行為だ。 ――――本部 ゲイズ室 レジアス・ゲイズも市川がこれから何をするのか、すでに施設内から送られた情報によって分かった…あいつはミッドチルダで 忌み嫌われた物を持って、よりによってクラナガンで戦争を起こすつもりだ…たった一人で。だが自分に何が出来る? レジアスは深刻な顔をする、手持ちの局員を派遣すれば彼を取り押さえることも出来るが、だがその場を凌いでもあいつは娘の為になら …ゲイズは溜息をついた、そして羨ましくも思った、思えば自分も娘に対しては幼い頃に愛情をあまりそそいでやれなかった (仕事優先で家庭を顧みなった)、その贖罪の為かある程度の地位を(まぁオーリス自身も猛勉強したがな) 与えている、だから彼女にとって私は父ではなく、上級将官として自分を見ているだろう…だが彼は大事な娘を父親として取り戻そうとしている …そしてゲイズは再び溜息をつき、デスクにおいてある写真を見ながら呟いた。 「なぁゼスト…」 死んだ戦友の顔を浮かべ懐かしむように呟く、そしてある人物を呼び出した、陸戦課第一実働部隊の部隊長であるスナブノーズ一尉と副隊長だ、 無論彼らも市川の個人的問題を知っている。そして入室する二人… 「急に失礼なのだが…非殺傷設定で市川守二佐を取り押さえる事は出来るかね?」 「「無理です」」 二人は即答し、スナブノーズは理由を述べる。 「彼はSASだけではなく数多の戦場で鍛え上げられたおかげで、多少の非殺傷設定での魔法攻撃は通用しにくいと思われます、 そして4年間虜囚の閉鎖された時代を過ごしても身体的、ならびに魔法能力は全く衰えを見せていません、それに彼の魔法は 主に攻撃よりも身体強化、非殺傷で取り押さえようとしてもこちらの損害は多いだけです」 「では君達二人ではどうかね?」 「…抑えることは出来ると思いますが、双方ともただではすみません、中将も知っておられますが彼はあのイリヤ・ジェルジンスキー を単独で叩きのめしたのですよ」 イリヤ・ジェルジンスキー、ある世界の過酷な暮らしの森林民族出身で2mを軽く越す身長と、凶暴なグリズリーも素手で殺せるほどの筋力、 殺傷設定の魔法攻撃を喰らってもびくともしないお前本当は試験管から生まれたモンスターじゃないのか?といわれる陸戦課では有名な局員なのだ。(何と妻帯者) 「うううむ…」 顔をしかめるゲイズ、少なくとも実戦経験では市川には及ばないが、積んでいる2人が揃って言うのだ、そしてゲイズは言った 「すまないが至急準備して市川の後をつけてくれ、万が一の場合は彼を支援もしくは撤収の為の援護をお願い出来ないか?」 「「了解しました」」 スナブノーズと副長は敬礼すると準備の為部屋を出た。 ―――通路 「しかし、まさかクラナガンで戦争を起こすとは流石二佐と言うべきか…しかし相手は地上課の潜入局員を次々と屠ったマフィア…それに単独で挑むとは」 副長はぼやく 「だが、彼にはそれに勝つだけの度胸と技量がある、我々以上のな…」 「それもそうですな」 ――――繁華街外れ フレイザーは繁華街外れに車を停め、待っていてくださいと外に出る。市川は其の間に戦争を起こす準備をした。 そしてフレイザーは30がらみのリッチェンスの部下を引っ張ってきた。市川は車から降りた、フレイザーが訪ねた。 「こんなところでどうです?」 「充分だ」 市川は、男の腹を殴りつけ昏倒させた、男を後席に乗せると彼は言った。 「さっ、ゆこう」 「どこにです?」 「もちろん、リッチェンス氏を忌み嫌っている所で最も有力なところな」 「まさか…」 「君の思う通りだよ、安心しろ死者は出さない」 「…ちょうど108部隊のゲンヤ3等陸佐とその配下がいますよ」 「それは好都合だ」 次の目的地までさして時間はかからなかった。 ――――クラナガン警察署前裏門 周辺に人はいなかった、フレイザーは車の速度をゆっくりと落として停止させた。 「何をするつもりです?想像はつきますが」 「君はここにいてくれ」 市川は車から降り、後席で昏倒している男を路上に放り出した。そしてホルスターからベレッタを抜き署に向けて弾倉から弾がなくなるまで発砲し、 弾倉を交換してから閃光手榴弾と音響手榴弾を堀越しに投げつけた、そして恐らく不運にもそこにいた警察官か、果たして108部隊の局員が叫び声を上げ、 うめき声をあげる、それを尻目に市川は車に乗り込み扉を閉める。 ――――署内 ゲンヤはクラナガン警察とのクラナガン及び周辺地域の治安などの会合に出席していた。 「な、何がおきたんだ!」 ゲンヤ・ナカジマは突然おきた銃声と轟音と閃光に仰天した、そして警察官がドアを蹴飛ばすようにあけて叫んだ。 「リッチェンスの部下がついにやりやがった!」 そう、上層部は買収されていたとはいえ、一部の上層幹部とかもリッチェンスの密輸業に怒り狂っていたのだ、 しかしリッチェンスは狡猾にもそうやって汚れたお金などは消毒するか、慈善団体として孤児院などに寄付していたのだ、 そして証拠を得ようと内偵調査はことごとく失敗し続けていたのだ、ようやく掴んだ強制捜査の証拠、沸き立つ署内、 大急ぎで屋敷突入(抵抗するのは分かっているから)の準備が行われる。 「すいません、108部隊の支援も頂きたいのですが…」 警部と思われる男からの要請にゲンヤは快く承諾した、そしてギンガと何名か隊員を呼び出した。 「悪いが、ずっと追っていたリッチェンスに対する強制捜査が行われる、すまんが同行してくれギンガ」 「はい、御父さん」 ――――別の車 「ゲッ!本当にやりやがった」 「相手の戦力を分断させる作戦か」 「しかし、何もそこまでやりますかね?」 「彼だからこそよるのだ、大切な存在を守る為にな」 スナブノーズと副長はこっそりと市川の車の後をつけた ―――車 「表門の様子が見えるところまで移動してくれ」 フレイザーは車を急発進させた、そして民家の影で止まった車の中から警察の様子を窺った、 そうすると大慌てで警察官や局員がパトカーに乗り、表門から飛び出した、皆武装していた、そしてフレイザーはうめいた。 「何てこった、本当に戦争になっちまった」 「まだまだこれからだ、彼らより5分ほど遅れて行動しよう。それで十分なはずだ」 「リッチェンスの屋敷へ?」 「我が娘の下へ」 目的地へと向かう車内で市川は言った。 「屋敷の西側につけてくれ」 「貴方の娘さんがいる部屋は、恐らく南側にあります」 「庭に面しているのか?」 「いいえ」 「君には感謝しなければならないな、例え私が逮捕されても、君が心配する必要はない。確約する。私は尋問に慣れているのだ」 「貴方が車から降りてから20分待ちます」 「何故そこまで親切にしてくれる?」 「警察としての巧妙を上げたいからですよ」 「それだけだとは思えない。君のような警官にとって感状や昇進はそれほど意味のあるものではないはずだ」 「トーベイという局員を覚えていませんか。あの戦争で貴方の部下だった」 「ジョン・トーベイ3等陸士。いい局員であり、兵隊であった。魔力ランクは低いがそれを補うほどの射撃術の腕は最高だった。 子供に好かれるような男だった。彼に微笑みかけられた子供と其の母親は必ず微笑を返すほどだった。 管理局員に対してある種の恐れと侮蔑とは無縁ではないあの戦争でもそれは変わりなかった。」 「ええ、あいつは他愛のないほどに子供好きな男でした」 「彼は負傷し、ミッドチルダに送還になった。幸運だった」 「彼は私の弟です」 「名字が違うな」 「男の子がいない親戚の家に貰われたんですよ。それなりに金のある家です。別に珍しくもない話です」 「やはり幸運な男だ」 「ええ、しかし、あいつはそこで幸運を使い切ってしまった。傷が癒え、帰還して、家に戻り、交通事故で死にました。戦争が終わる直前です。莫迦な奴ですよ。何の為に生きてきたのか分からない」 「成る程」 「貴方のことは弟から教えられました。弟は本当に尊敬していましたよ、市川二佐の事を。 兵隊が例え血の池地獄に落ちても、そこに飛び込んで助けてくれる人だといって。 あいつが地雷原の真ん中で腹を撃たれてうめいた時も貴方はは地雷原と相手の攻撃を駆け抜け、 私の弟を救ってくれた。彼はその事を酔うたびに話してくれました」 「当然だ」 市川は当然の義務のように答える。 「襟に付けた線の数が私にそれを要求していたのだ」 「現状における私の立場も余り違いはありません。誰も困らないならば、何が悪いと言うのか。警察にあるまじき発想ですがね」 「可能ならば、機会を捕らえて墓参りさせてもらいたい。勿論君の許しを得た後に」 「喜びますよ、あいつは」 デバイスから魔力弾が放たれ応戦するように銃声が響いてきた。フレイザーは車を裏通りへ乗り入れた、屋敷の西側につける、 市川は扉を開けた、そしてフレイザーは念押しした。 「20分ですよ…二佐、御武運を祈ります。まぁ、武運は貴方の得意技なんでしょうが、兎も角、戦争を終わらせてください。可及的速やかにね・・・」 「ありがとう、警部補」 ――――リッチェンス邸正面 当然と言えば当然の事だった、警察と局員が邸宅へ強制捜査に踏み込もうとして、リッチェンスの部下たちと揉み合いとなって、そして誰かが発砲したことにより、警察、局員そしてリッチェンスの部下たちはたちまち撃ち合いとなった。 「これ、本当に家なの?」 ギンガ・ナカジマはうめいた、そらそうだ、壁には若干とはいえAMFが貼られており、警察は苦戦、そしてギンガも ウイングロードで空中から突入しようとするが、リッチェンスの部下が配備していた対空用の重機関銃(後にZU-23と判明) による攻撃で迂闊に攻撃を駆けられないのだ、確かに張った防御魔法トライガードもたとえ1,2発ぐらいなら弾でも何発も喰らうと あっさりと砕け散るだろう。 「丸で要塞ね」 ギンガは思った、そして悲鳴が上がる、警察の一名が銃弾によって倒れたのだ。ギンガは歯を噛み締める…そして空が駄目なら…、 ギンガは警察の指揮官に連絡を入れる、自分が壁をぶち抜くので其の為援護をしてほしいと、指揮官は言った、大丈夫なのかと、 AMFが貼っているじゃないかと。しかしあのぐらいのAMFなら自分のデバイスで充分ぶち抜けますと、指揮官は難しい顔をしたが、あっさりと了承した。 そして警察官や局員が自分を支援するように弾幕を貼る、そして怯んだ隙を狙って、壁に向かって突進する、何発か銃弾が飛んできたが、大体は外れて、 そして当たりそうなのはトライガードで防いでいた、そして魔力を貯めた左手に装着しているリボルバーナックルのカートリッジの薬莢を撃ち出し、 そこによって発生した魔力を直接壁に叩き込んだ、轟音がして壁の一角が崩壊した、歓声が上がるが、リッチェンスの部下達はしぶとく抵抗する、 まだ邸内突入は無理だ…そう思い一端離脱(自分の銃弾が集中してきた為)した・・・ だが突然裏口から爆発が起きる。あれ?まだ後ろに回った部隊はいなかったはず、では一体誰が? ――――邸裏口 市川は周囲の状況を確認し、塀の弱い部分を確認、C4を取り付け雷管を作動させ、飛び跳ねるようにして距離をとり伏せた、 そして爆発が発生し、塀が崩れ落ちた、一応AMFを貼っているといっても膨大な破壊力を持つ質量兵器の前では無力と言って過言ではなった、 そして市川はMP5を構え、崩れた塀を乗り込えた、愛すべき娘の下へ行く為… ――――某車 「突入したようだな」 「ええそうですね」 スナブノーズも副長も既に戦闘体制を整えつつあった。 「暫くは様子見だ、こっちにノコノコやってきた連中は」 「とりあえず、暫く冷たい地面の上でお昼ねと言うわけか」 「殺すなよ…」 「隊長も拳の威力抑えといて下さいよ、隊長の拳は簡単に人殺せますからね」 戻る 目次へ 次へ
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見学も進んでいった頃、はやてが 「ほな、ちょっと派手なもんでも見にいこか」 と、いきなり出てきた。 案内されたのは時空管理局自慢の訓練スペース。 ライトニング、スターズの新人フォワード達が様々なパターンで対ガジェット戦術の訓練をしている。 エリオが最後の一つを貫いて破壊。 指導するなのはとフェイト、それに観測のシャリオ達の所に戻ってくる。 「みんなお疲れ」 「よくなったね。新記録だよ」 「やったぁ」 スバル達は飛び上がって喜ぶ。 「ふっ」 わざとらしく鼻で笑う音が聞こえてきた。 あからさまにあざけるが含まれている。 「まだまだだな」 「なによ」 一転して機嫌の悪くなったティアナがグゥを見下ろした。 「あの程度で手こずっているようでは」 「ならなに?あなたなら、もっとできるって言うの?」 「まあな」 傍目から見ても険悪な二人の間にはやてが割ってきた。 「まぁ、まぁ二人とも。じゃ、グゥちゃんやってみるんか?」 「望みとあらばな」 「部隊長、いいんですか?」 と言いながらもシャリオは設定をはじめている。 「かまわんよ。さ、やってみよか」 「じゃ、はじめますね」 シャリオがキーを押すと遠近に無数のがジェットがあらわられた。 「あたし達がさっきクリアしたのと同じね。見せてもらいましょう」 ティアナが腕組みをして、グゥの後ろに立っている。 「じゃ、スタート」 グゥが服の中からなにかを取りだした。 ぶんぶん振り回していてなにかはよくわからない。 「ここんとーざい」 「オッケー。ボス」 びしっと止める。 グゥの周りに無数の光球ができて飛んでいく。 それは、見えるがジェットはもちろん隠れて視認できないガジェットまで全てAMFをものともせずに破壊していった。 「すごい・・・最高スコアです」 つぶやきながら映像を再生するシャリオ。 「なぁなぁ、ここんとこよーみせて」 食い入るように映像を検証するはやて。 「ま、まけたわ・・・」 がっくりと膝をつくティアナ。 ハレはグゥの成果に驚いてはいなかった。 グゥの振り回していたものを凝視していた。 ピタリと止められたそれは今ははっきりとその姿がわかった。 それはビシッと背広を着込んだ筋肉質で禿頭でひげ面の大男だった。 「おい、それいったい何なんだよ」 「ボッチャン、ワスレタンカ?ぼくヤ。ボディーガードノクインシー・ポーター(以下QP )ヤガナ」 「いや、そういう事じゃなくて・・・今日もステッキのバイト?」 「チャウネン」 「じゃあ・・・」 「キョウハ、インテリジェンスデバイスのバイトヤネン」 「インテリジェンスデバイス・・・どこが?」 グゥが口をはさんだ。 「喋る」 「喋ればいいってもんじゃないわぁあああっ」 向こうでは、はやてとシャリオが顔をつきあわせている。 「完全自立型のインテリジェンスデバイス。めずらしいですね」 「せやな。あんなに大きいのは初めて見た」 「いや、他に言うことがあるだろ」 QPはなのはの見ていた。 「ボッチャン、チョットシツレイスルワ」 大きな体を揺らしてなのはの前に行く。 「あのぅ・・・」 自分をじっと見下ろすQPにおずおずと声をかける。 「オヒサシブリデス」 「あの、なのはさん。お知り合い?」 なのはは横で結んでいる髪が遠心力で水平になるほどに勢いよく首を横に振って答える。 「レイジングハートハン」 「そっちかよ!!だいたいクインシーとレイジングハートにどんなつながりがあるんだよ」 「レイジングハートハンハ、ぼくノ指導教官ナンヤ」 「は?」 「アレハナ・・・・・」 回想シーン 大勢のデバイス達が並んでいる。 その中にはマッハキャリバー、クロスミラージュ、ストラーダ、ケリュケイオンやクインシー・ポーターもいる。 彼らの前を歩き、レイジングハートは声を張り上げていた。 「わたしが訓練教官のレイジングハートである!話しかけられたとき以外は音声を発するな!ノイズをたれる前と後に“サー”と言え 分かったか、石ころども!」 「Sir,Yes Sir」 過酷な訓練がはじまる。 デバイス達は泥まみれになり、傷を作り、無様に倒れていく。 「貴様ら真空管どもが俺の訓練に生き残れたら、各人がデバイスとなる!その日までは漬け物石だ!次元世界で最下等のケイ素だ!」 「貴様らはデバイスではない!哺乳類の糞をかき集めた値打ちしかない!」 「俺は厳しいが公平だ!差別は許さん!尿酸結石、シスチン結石、リン酸結石を、俺は見下さん!すべて・・・平等に価値がない!」 「俺の使命は役立たずを排除することだ!愛する次元管理局の石綿を!」 「分かったか、コプライト!」 「Sir,Yes Sir」 回想シーン終わり 「ト、イウワケナンヤ」 「なぁんだそりゃぁああああ」 「レイジングハートが私の知らないところで私の知らないことを・・・・・」 ハレの横で頭を抱えるなのはの肩が叩かれた。 なのはが振り向くとはやてが満面の笑みでそこにいた。 「なのはちゃん、お手柄や」 「え?」 「グゥちゃんや。すごい逸材や。うちに来てくれたら、戦力に厚みが出ること間違い無しや」 「え・・・えーーーと」 フェイトもやってくる。 「うん、私もそう思う。私、昔のなのは思い出したし」 「ええ?私あんなふうだったの?」 「うんうん、あの砲撃。その通りや」 なのははガマのように冷や汗をたらし、ハレの両肩をがしっとつかむ。 「ハレ君!」 「はい」 「ハレ君もうちに来て!」 「いや、俺普通の人だし・・・」 「来て欲しいの!」 「魔法使えないし・・・」 「私を見捨てないで!!私1人じゃ、グゥちゃんのこと絶対無理!」 「俺の存在意義って、グゥ関連だけですか!!!」 その後、はやて説得に全力を尽くすと言うことでとりあえず落ち着いたがハレはしばらく落ち込んでいた。 前へ 目次へ 次へ
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「高町なのは」 エース・オブ・エースの異名と共に、ミッドチルダにおいてその名を知らぬ者は多分いないであろう。 しかし、そんな彼女の存在がとんでもない脅威を招き寄せてしまうのである! その日、ミッドチルダの人々は特に何の変哲も無い日常を送っていたが、異変はそこから遠く離れた 時空管理局の本局内無限書庫の中から起こった。 「いきなり出て来るなり僕をこんなにして…お前は一体何者だ! 何が目的なんだ!」 『フォッフォッフォッフォッフォッフォッ…………。』 無限書庫中の一角、無限書庫司書長ユーノ=スクライアは何者かにロープで縛られていた。 そしてユーノの目の前に立って不気味に笑っているのは、ただの人間では無かった。 頭部はまるでセミを思わせ、腕はまるでザリガニの様なハサミ状になっていたのである。 これはもはや誰がどう見てもあきらかに「人間」では無い。 『何も取って喰おうなんて野蛮な事はしない。私はバルタン星人。』 「バルタン星人!?」 ユーノの問いに対して、彼はそう答えた。「バルタン星人」 この世に存在する「人類」がホモ・サピエンス型のみでは無い事は知られている事だが その非ホモ・サピエンス型人類の中の一つに「星人」と呼ばれる分類が存在し、 さらにその数多の星人の中の一つの人種が彼、宇宙忍者の異名を持つバルタン星人なのである。 「うわ…星人なんて初めて見たよ…。管理局にも様々な世界から人が集まって来るわりには 大人の事情でホモ・サピエンス型人類な局員しかいないからな~。って感心してる場合じゃない! バルタン星人とやら! 僕を一体どうするつもりなんだ!?」 『だから先程言ったでは無いか。何も取って喰おうなんて野蛮な事はしないと。 だだ私はある目的の為に君の姿と声を借りたいのだ。』 「ある目的!? それは一体何なんだ!?」 『フォッフォッフォッフォッ! 心配する必要は無い。』 「答えになって無いよ!」 丁寧に説明してくれるわりには肝心な事は教えてくれなかったバルタン星人は次の瞬間自分の腕を軽く振るう。 するとどうであろうか。バルタン星人がユーノと同じ姿へと変身したのである。 「どうかな? 上手く化けられたかな?」 「うわ! 声まで一緒…気持ち悪い…。」 バルタン星人の変身したユーノは本物のユーノが見ても驚く程姿も声も寸分違ってはいなかった。 ミッド式魔法にも変身魔法は存在するが、それを踏まえてもバルタン星人の変身は異常な物があった。 ミッドチルダにおいて変身魔法で特定の誰かに成りすます事は犯罪とされる。無論それを防ぐ為の 魔法等も確立されているのだが、バルタンの変身はミッド式魔法による変身魔法とは全く異なる物であり、 ミッドチルダにおける対変身魔法では察知する事すら出来ない。バルタン星人が変身する様を眼前で見た ユーノただ一人を除いては……… 「ぼ…僕に化けて一体何をするつもりなんだ!?」 「大丈夫だよ。何も君に成りすまして悪さをして、全ての罪を君に着せるなんて事はしないから。」 「嘘付け! どう考えてもそれやるに決まってるじゃないか!」 ユーノは必死にもがくが、ロープで縛られている為に身動きが取れない。 そしてユーノに変身したバルタン星人は悠々と無限書庫から去って行った。 ユーノに変身したバルタン星人。彼の狙いは果たして一体何なのであろうか? それから一時した後、ヴィヴィオは無限書庫へ行く為に本局行きの定期船へ向かっていた。 そんな中、彼女はとある光景をふと目にした。 「あ!」 ヴィヴィオが見た物とは、なのはがユーノと並んで歩いていた光景であった。 とは言え、それはヴィヴィオがいる場所から距離が離れていての事であったし、 二人が一緒に歩くという光景は別に不自然な物では無く、何よりヴィヴィオは 無限書庫に行く為に本局行きの定期船に乗らねばならない。 だからヴィヴィオは特に構う事は無くその場を去るのであった。 そうしてヴィヴィオが無限書庫に辿り着いて間も無くの事だった。 「あれ~~~~~~~~~!?」 その様なヴィヴィオの間の抜けた声が無限書庫中に響き渡った。何故ならば………… 「ユーノくんそんな所でどうして縛りプレイしてるの!?」 「違う! 縛りプレイじゃなくて本当に縛られてるんだよ!」 そこにはロープで縛られ身動きが取れなくなったユーノの姿があったのだから、ヴィヴィオにとって驚きである。 つい先程ユーノがなのはと共に歩いていた所を目の当たりにしていただけに、ヴィヴィオはどういう事なのか さっぱり意味が分からなかった。 「ユーノくんどうしてこんな所にいるの? なのはママとお出かけしてたんじゃなかったの!?」 「違う! それは僕じゃない! 僕に化けた偽者の仕業なんだよ!」 「ええ~~~~~~~~~~!?」 「とにかく僕の偽物がなのはと一緒にいたって事はなのはが危ない! 一体アイツの狙いは何なんだ!?」 ユーノに真実を知らされ、ヴィヴィオは真剣に驚いた。これはもはや悠長な事はしていられない。 ユーノとヴィヴィオは共に無限書庫を飛び出し、なのはと偽ユーノを探す為にミッド地上へ向かうのであった。 一方、バルタンの変身した偽ユーノは何食わぬ顔でなのはと共に街を歩いていた。 無論、誰もそのユーノがバルタンの変身した偽物であるとは気付いていない。 前述の通り、ミッド式の変身魔法とは根本から異なるバルタン忍法による変身は ミッド及び管理世界内で使用される対変身魔法対策では察知する事すら出来ないのである。 「ねえユーノ君、私に大切な話があるって何かな?」 「うん。それはね…。」 姿のみならず声さえも完全にユーノに成りすますバルタンにはなのはも気付かず、 しかし突然大切な話があるからとこんな所に呼び出したその行動に違和感を感じながら 問い掛けていたのであったが、その時だった。 「そこまでだ!」 「え!? ユーノ君がもう一人…?」 そこへ現れたのは本物のユーノ。しかしそれを見たなのはは二人のユーノに双方を見渡し困惑する。 「ソイツから離れるんだ! ソイツは僕の偽物だ!」 「え!? え!? 偽物…!? でも変身魔法の反応は感じられないよ?」 流石のなのはも双方の判別が出来ず、双方をそれぞれに見渡し続けてはあたふたしていたが、 そこへ遅れてヴィヴィオも到着していた。 「こっちのユーノくんが本物だと思うよ。だってこっちのユーノくんは無限書庫でロープで縛られてたんだよ。 きっとなのはママと一緒に入る偽物のユーノくんに縛られたんだよ。その偽物のユーノくんはユーノくんに 成りすまして悪い事するに決まってるよ~。」 「ヴィヴィオまで…。と言う事は………。」 ヴィヴィオにもそう言われ、なのはは恐る恐る自分と一緒にいる方のユーノに目を向けてみるが、 その直後だった。なのはと一緒にいる方のユーノが笑い始めたのである。 『ハッハッハッハッハッハッハッ! こんなに早く脱出して来るとは思わなかった! もう少しきつく縛っておくべきだったかな!?』 「え!?」 その時の声はユーノのそれでは無かった。そしてなのはと一緒にいる方のユーノの姿が 三人の目の前で変わって行き、バルタン星人としての正体を現したのだ。 『フォッフォッフォッフォッフォッフォッ!』 「キャァァァァ!! 何これぇぇ!!」 『おっと逃がさんよ。』 自分がユーノと思っていた人間が突然セミ顔でザリガニ腕な星人の姿になってしまい、なのはも 思わず悲鳴を上げていたが、バルタン星人はなのはを逃がさず両腕のハサミでガッチリと捕らえていた。 「なのはを離せ! 一体なのはをどうするつもりなんだ!」 『フォッフォッフォッフォッフォッ! 高町なのははこれよりバルタン星人の物になるのだ!』 「何だって!?」 『見よ!』 バルタン星人が片腕を上空へ向ける。するとどうであろうか。クラナガン上空に漂っていた巨大な雲の中から 葉巻型の巨大な戦艦が現れたのである。 『バルタンの星から来たUFOの母船だ。あの中に高町なのはを吸い込ませてバルタン星に連れて帰る。』 「それで一体どうするつもりなんだ!?」 『我々優秀なバルタン星人の動物園に入れるのだ。下等動物として動物園にな! フォッフォッフォッフォッ!』 何と言う恐ろしい計画であろうか。バルタン星人の目的はなのはを捕らえて自星の動物園に入れる事だったのである。 ユーノに変身したのも、ユーノに成りすませば一切警戒されずになのはに近付く事が出来ると見ての事なのだろう。 そしてなのはとバルタン星人に対し、バルタンの葉巻型戦艦からビームが放射される。 ビームと言ってもそれに殺傷力は無く、俗にトラクタービームと呼ばれる物なのか 二人はバルタンの葉巻型戦艦へ向けて吸い込まれて行く。 「なのはー!」 「ユーノくーん!」 このままではなのははバルタン星へ連れ去られて動物園に入れられてしまう。 なのはは必死でもがくが、バルタン星人の力は強く離さない。 『無駄な抵抗はよせ! 往生際が悪いぞ!』 バルタンはなのはを抑えようとするが、なのはは抵抗を止めない。なにしろバルタン星に 連れて行かれたらなのはは動物園に入れられてしまうのだから、なのはも必死である。 人として最大限の努力をしなければならない。そしてバルタンの腕が緩んだ一瞬の隙を突いて脱出。 レイジングハートで魔法少女に変身した。マッハ5のスピードで空を飛び、強力な魔力であらゆる敵を 粉砕する不死身の女となったのだ。それ行け! 我等がヒロイン! って第一作目ウルトラマン第一話を見てなきゃ 全然意味が理解出来ないフレーズだなこれは。 バルタン星人及びバルタン葉巻型戦艦のトラクタービームから脱出したなのはは空を切ってその場から離れて行く。 しかしバルタン星人も空を飛んでなのはの後を追い駆ける。 「近付かないで! 気持ち悪い!」 なのははバルタン星人目掛けてシューターを連発して行くが、バルタン星人もそれを掻い潜って行く。 一方、バルタン星人の襲来によって時空管理局ミッド地上本部は大騒ぎであった。 特にバルタンの葉巻型戦艦は依然クラナガン上空を我が物顔で浮遊(もち無許可で)しており、 管理局もこの対処に追われていたが、本局ならともかく貧乏な地上本部にまともな戦艦の類があるワケが無く もうこの状況どうすりゃええんだよ~って事になっていたが、なんとか彼方此方探し回った挙句 既に廃艦が決まっていたにも関わらず、廃艦解体作業もタダじゃねーんだぞと言わんばかりに予算の都合で 依然そのままの状態で残っていたアースラに急遽武装や燃料を積み込んで出撃すると言う事態になっていた。 なのはのシューターを巧みに掻い潜るバルタン星人になのはは徐々に追い詰められつつあった。 バルタン星人は空を飛べるのみならず、バルタンの同属の中にはかつてM78星人のスペシウム使いの一族とも 互角以上の空中戦を演じた者がいる程その速度も凄まじい。流石のなのはも苦戦は必至と言わざる得なかったが… 「なのはー! 助けに来たよー!」 「フェイトちゃん!」 そこへ何処からかなのはのピンチを小耳に挟んだのか、フェイトが飛んで来た。 そしてバルディッシュのザンバーモードでバルタン星人へ飛びかかったのである。 「なのはに手を出す奴は私が許さないぃぃぃ!!」 次の瞬間バルディッシュザンバーの一閃がバルタン星人の身体を真っ二つに両断した……が……… 何と言う事だろう。そのバルタンの真っ二つになったそれぞれが二人のバルタン星人に変化したのだ。 『フォッフォッフォッフォッフォッ!』 『フォッフォッフォッフォッフォッ!』 「ええ!?」 二人のバルタン星人の不気味な笑い声がハモり、フェイトも思わず困惑してしまうが、 二人のバルタン星人の両腕のハサミがフェイトに対して開かれ、そこから破壊光弾 通称バルタンファイヤーが撃ち込まれ、その直撃を受けたフェイトは何処へ吹っ飛ばされてしまった。 「あ~れ~!」 「フェイトちゃ~ん!」 恐ろしい。何と恐ろしいバルタン星人であろうか。宇宙忍者の異名は伊達では無いと言う事なのか。 一方その頃地上ではユーノとヴィヴィオの二人に加え、この騒ぎを聞き付けて殺到して来た大勢の モブ局員に対してバルタン葉巻型戦艦の猛爆撃が行われていたりする。なのは本人は動物園に 入れる事が目的である為に生け捕りにするのだろうが、他の者達はお構いなしと言う事であろうか。 無論管理世界における質量兵器禁止もバルタンには関係の無い事なので、バルタン葉巻型戦艦の 破壊光弾が次々にクラナガンの地表へ撃ち込まれもう阿鼻叫喚。 そこへやっと遅れて来たアースラが到着。バルタン葉巻型戦艦へ向けて魔力砲を果敢に発射し、 クラナガン上空を舞台に壮絶な空中戦が始まっていた。 その頃、なのははシューター攻撃を止め、二人から一人に戻ったバルタン星人に対して レイジングハートの先端を向けていた。 「全力全開! ディバイィィンバスタァァァァ!!」 なのはの代名詞と言われるディバインバスター。これならば例え直撃は無くとも射線にいるだけで それ相応のダメージを与える事が出来る…が…次の瞬間である。ディバインバスターがバルタン星人を 飲み込むと思われたその時、バルタン星人の胸部が開き、そこから現れた鏡上の物体が そのディバインバスターを180度反射させてしまったのである。 「え!? キャァァァァァァ!!」 自分のディバインバスターが180度跳ね返って来てなのはも思わず悲鳴を上げずにいられなかった。 そう。これもバルタン星人の持つ能力の一つであるスペルゲン反射鏡。胸部に仕込まれた強力なミラーで 全ての光学兵器を弾き返してしまうのである。人類にとって放射線や紫外線が有害である様に、 スペシウムなる物質を有害としているバルタン星人が、スペシウムの力を持つM78星雲の戦士に対抗する為に 自身を進化させたのが始まりであり、その威力はM78星雲の戦士の放つ光線のみならず、あらゆる光学兵器に 対して有効である。無論ディバインバスターも光を発している以上光学兵器には変わり無い為、 スペルゲン反射鏡の前には反射されてしまうのも仕方の無い事だった。 「え!? そ…そんな!」 『フォッフォッフォッフォッフォッフォッ!』 ディバインバスターが180度そのまま反射される。なのはにとってそれは衝撃的な事だった。 しかしバルタン星人はそんな事等構うはずも無くなのはへ向けて迫って来るのである。 『フォッフォッフォッフォッフォッフォッ!』 「悔しいけど空中戦では不利なのかもしれない…。」 なのはは確かに優れた空戦魔導師であるが、元々陸上生物たる人が魔力によって不自然に飛行している形に過ぎない。 だがそれに対しバルタン星人は種として当たり前に持っている力として飛行可能な星人である。 それを考えれば空中戦に関してなのはと言えどもバルタン星人に劣っていると言わざるを得ず、 なのはは陸に降りて地上戦に切り替えるのだった。 「あの両腕の大きなハサミで殴られたら一溜まりも無いけど…代わりに重くて格闘戦時の動きも鈍くなるはず…。」 陸に降りたなのはは後を追って陸に降りたバルタン星人に対しあえて格闘戦を挑んだ。 バルタン星人の両腕の大きなハサミは格闘戦時に強力なハンマーとして機能し得る反面 その分重量もあって素早くかつ器用に振り回す事は出来ないであろうと考えたのである。 故にバルタン星人のハサミ攻撃を回避しつつレイジングハートでバルタン星人を一突きにする作戦であった。 「やぁぁぁ!!」 レイジングハートを構え、なのはは正面からバルタン星人目掛け突っ込んだ。 そしてレイジングハートの鋭い先端部分がバルタン星人の胴体部へ突き立てられる……と思われたその時、 バルタン星人がフッとその場から掻き消えたでは無いか! 「え!? 消えた!?」 突如として姿を消したバルタン星人に戸惑うなのはであったが、さらにその直後 何と背後にバルタン星人が現れて右腕のハサミで突き飛ばされてしまった。 バリアジャケットの保護があれど、これは痛い。 「え!? 何時の間に後に!? ならば今度こそ!」 バルタンに殴られて痛いのを我慢して素早く体勢を立て直したなのはは再びバルタンへ突きかかる…が、 やはりバルタンはなのはの眼前からフッと掻き消え、今度は側面からハサミで突き飛ばされてしまった。 これも例によって痛い。 「えぇ!? そんな! 何でぇ!?」 なのははその後も何度も何度もバルタンへ突っ込むが、その都度バルタンは掻き消え、 さらにその直後になのはの意識しない方向から反撃を受けると言う事を繰り返す羽目になっていた。 そう。これこそバルタン星人が宇宙忍者と呼ばれる所以の一つ。物や人を遠くへ転送する魔法は ミッドチルダにも存在するが、それも詠唱等の準備が必要となる。しかし、バルタン星人は 特に意識する事無く呼吸をする様に楽々と瞬間移動を可能としているのだ。その威力は M78星雲のスペシウム使いの一族の戦士さえ翻弄してしまえる程。しかもこれもやはり バルタン星人が種族として当たり前に持っている力なのだから恐ろしい事この上無い。 『フォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッ!』 「あーもー! ズルイズルイ!」 人間の基準からは余りにもトリッキー過ぎるバルタン星人の行動になのはも悔しさを感じずを得なかった。 M78星雲のスペシウム使いの一族の戦士ならば透視能力でバルタン星人の動きも捉える事は可能であろうが、 残念ながらなのはにそんな力は無い。しかしなのはにはまだ最後の武器が残っていた。 「えぇい突撃!」 再びバルタン星人へ突撃するなのは。無論その手はバルタン星人に瞬間移動回避をされるのがオチである。 しかし……………… 「と見せかけてバインドォォ!!」 なのははバルタン星人へ突っ込むと見せかけてバインドをし掛けた。なのはが馬鹿の一つ覚えの様に バルタン星人へ突撃を繰り返していたのは全てこの為であった。なのはが突撃を繰り返せば、バルタン星人も 条件反射的に同じ行動を取る様になる。そこでなのはが全く違う行動を取ればバルタン星人も、 最低一瞬は隙が出来るはず。そこを狙いなのははバルタン星人へバインドをし掛けたのである。 両腕両脚のみならず、胸部スペルゲン反射鏡を仕込んだ部分をバインドで抑えられ動けなくなった バルタン星人に対し、なのはは距離を取った。 「これならば…これならばどう!? 今度の今度こそ正真正銘の私の全力全開! スターライト! ブレイカァァァァァァァァァァァ!!」 出た。なのはが周囲の魔力を集め放つスターライトブレイカー。ディバインバスターと並ぶ 彼女の代名詞とさえ言われる強力な魔力砲である。ディバインバスターをも凌ぐ太さと出力の 極太魔力砲がバルタンへ向け、射線上のあらゆる物を巻き込みながら突き進んで行く。 そしてバルタン星人はバインドから逃れる事もスペルゲン反射鏡で弾き返す事も出来ず、 ついにその魔力光に飲み込まれてしまった。 「ふぅ………幾ら相手が星人だからと言っても…やっぱり命を奪うのは忍びないかな…。」 スターライトブレイカーの魔力爆発が晴れ、そこに残された真っ黒焦げの焼死体となった バルタン星人に対しなのははそう呟いていたが…その時だった。何とその焼死体と思われた バルタン星人の中からまるで虫が脱皮をする様に無傷のバルタン星人が出て来たのである。 『フォッフォッフォッフォッフォッフォッ!』 「えぇ!? そ…そんな……。」 バルタン星人はここまでの力を持つと言うのか? 自分の持つ全ての能力が通じないバルタン星人の 脅威的な力になのはも絶望せざる得なかった。バルタン星人がなのはを下等動物として動物園に 入れよう等考えるのも、これだけの差を見せ付けられればそれも仕方の無い事なのかもしれないと 彼女でも考えてしまう。そしてバルタン星人は絶望しその場に立ち尽くすなのはへ歩み寄って行く。 しかし、絶望的なのはそれだけでは無かった。クラナガン上空でバルタン葉巻型戦艦と撃ち合っていた アースラもまた背後に回りこまれた上で滅多打ちにされ、煙を噴き上げて失速ていたのだった。 「推進部、動力部ともにもうどうにもなりません!」 「総員退艦! あ~も~! あれもこれもまともな艦をよこしてくれない本局が悪いんだ!」 幾らアースラが廃艦が決まった旧式艦であるとは言えこの絶望感は異常。恐るべきはバルタンの科学力。 とは言え、アースラにはリンディ・クロノ・エイミィ等、アースラと言えばこいつ等的なお馴染みのメンバーはおらず、 クルーも艦長も急遽揃えられたモブの集まりであったのだから、むしろここまで戦えた事を褒めるべきか。 アースラも工場で廃艦解体されるよりかは戦いの中で轟沈した方が本望であろう。 「あ…アースラが…。」 『フォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッ!』 アースラが炎を吹き上げ沈んで行く中、バルタン星人の不気味な笑い声が響き渡る。 そして絶望の余りその場から動けぬなのはに対しバルタン星人は一歩一歩近寄って行くのである。 『バルタン星の動物園が待ってるぞ~。』 「あ…ああ……。」 なのははこのままバルタン星の動物園に下等動物として入れられてしまうのだろうか? が、その時だった。突然バルタン星人に背後から飛んで来たと思われるチェーンバインドが巻き付いたのだ。 「あのチェーンバインドの色はユー………あっ!」 チェーンバインドの色から考えるに、ユーノの物であるとなのはは悟っていたのだが、その後が違っていた。 確かにチェーンバインドそのものはユーノの物だ。しかし何と言う事であろうか。ユーノのそのチェーンバインドを ヴィヴィオやら先程バルタン星人に吹っ飛ばされたはずのフェイトやらその他モブ局員やらが大勢集まって 掴んで引張っていたのである。 「そ~れ! そ~れ!」 とか何か声を上げながら皆で一斉にバルタン星人を引張り、なのはから引き離して行く。 しかし、ただ闇雲に引張って行くだけでは無かった。 「それ! 今だぁ!」 「それぇぇぇぇぇ!!」 皆で息を合わせ、一斉にバルタン星人を引き飛ばした。バルタン星人が引き飛ばされた先にはバルタン葉巻型戦艦。 そしてバルタン星人は勢い良くバルタン葉巻型戦艦に衝突し、忽ち空中で大爆発を起こし四散してしまった。 「あ……………。」 あれだけのチート振りを誇ったはずのバルタン星人の余りにもあっけない最後になのはも 開いた口が塞がらなかったのだが、それをフォローするかの様にユーノが言った。 「だって考えても見てよ。バルタン星人を倒せるのはバルタン星人の作った兵器しか無いんじゃない?」 「な…なるほど~~~~~~~~!!」 確かに言われて見ればその通りである。様々なチート的超能力を種として持っているバルタン星人を 倒せるのは、そのバルタン星人がチート的科学力で作ったチート的兵器しか無い。 こうしてなのはをバルタン星の動物園に入れると言うバルタン星人の野望は潰えた。 しかし、バルタン星人は数多ある星人の中でも特に限りなきチャレンジ魂を持っている種族である。 もしかしたら何かの拍子に付けてヴィヴィオ・リオ・コロナ等の子供達を喧嘩させ、 その子供同士の喧嘩から家庭間の喧嘩に発展させ、そこからさらに喧嘩の規模を連鎖的に 発展させる事で全人類を巻き込む大戦争にまで発展させて行く~なんて気の長い 計画を進める様なバルタン星人も…現れるのかもしれない。 END
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「たっ! 大変です、バクラさん! 今日は2月14日ですよ! バレンタインですよ!?」 「そうだったな……で?」 「で?……じゃないです! 他の世界ではストロベリーだったり、カオスだったりな素晴らしいバレンタインを過ごしているのに…… どうして私達はシリアス真っ只中!?」 「しょうがねぇだろ、現在最大級の山場だぜ? オレ様も脱ぐと早くなる露出狂執務官を、どれほど素晴らしくブチ殺すかを考えるのに忙しいんだ」 「バクラさん……バレンタイン的なことしたいです」 「あ~ん? 興味ねえよ、チビ竜とでも戯れてろ」 「ちょっとで良いんです、一緒に……ね?」 「……しょうがねぇな、付き合ってやるか……」 「はい! ありがとうございます!!」 とまあそんな話があったりなかったりして、この先のお話は本編とは一切関係ないものと明記した上で…… 『キャロとバクラが慌ててバレンタイン的なことをするそうです』 「チョコが売り切れてなくて良かった~」 この頃住み着いたオンボロアパートのキッチンで、身近なスーパーのビニール袋からキャロが取り出すのはまさしくチョコ。 チョコレートと言う正式名称を持つカカオ豆などで生成されたお菓子だ。今日、このバレンタインと言う日には無くてはならない代物。 『で? 誰にやるんだ、ソレ。チビ竜か?』 「え……それは勿論……バクラさんです。日頃のお礼に」 物珍しそうにチョコレートを凝視していたバクラはキャロのそのはにかんだ答えに意外そうな顔をし、呆れたように肩を竦めた。 『オレにくれても食うのはお前の体だぜ、相棒?』 「夢の無い事をいう人ってキライです……」 興味深そうにチョコを狙っているフリードを叱り付け、キャロは湯煎の準備に取り掛かった。 まずは買ってきた一番安い板チョコを細かく刻み、ボールに集めていく。 次に熱した鍋にそのボールを浮かべる形で湯銭していくわけだが、その様子を見ながらまた情緒など読めない盗賊が余計な一言。 「別にそのままでも良いぜ? 喰ったら同じだし」 「貴方はよくても私はイヤなんです……せっかくの思いを伝えるチョコが板チョコなんて」 「キャウ~!!」 チョコレートが良い感じに溶けて来れば当然、香りが辺りに立ち込め始めるもの。 その独特な香りは幼竜の感覚器を大いに刺激したらしく、フリードが大興奮。 何時もは言い付けを良く聴く良い子なのだが、今回ばかりはそれが出来なかったらしく、鍋に飛び掛ろうとする。 「フリード! 危ない…キャッ!?」 ソレを防ごうとした反動でキャロのドジっ子性能がフルドライブ。 何を如何したのか解らないが、チョコが入ったボールが盛大に宙を舞う。 そしてソレがぶちまけられた先は……千年リングの上。 「随分と美味そうになっちまったな」 『すみません……』 呆れたバクラの声に、キャロのか細い謝罪が重なる。 チョコの海から引き上げた千年リングはキレイにコーティングされ、チョコレートで出来た芸術品のようでもあった。 「さっさと洗わねえと固まっちまうな」 『勿体無いですよ!』 「オレ様にこれを食えと?」 『うっ……だったら私が食べますから、変わってください』 「おっおい……」 キャロ自身もチョコレートなどここ最近食べていない もとよりバクラに食べてもらう分と自分が食べる分で半分ずつ、小さなものを二つ作ろうと思っていた。 床の上ではなく千年リングに掛かった部分なら、問題ないだろうと判断したらしい。 貧乏人の根性は健在である。 「はむ……甘くて……美味しいです」 まず三角を囲む円の部分から指で掬い取り、口に運ぶ。指についたチョコは勿論まだ固まりきっておらず、指を舐めるように味わう。 次にパラソルチョコのようになった指針の部分を直接口に入れて、しゃぶる。 その熱心な様子はまるで恋に浮かされたようでもあったりして……板チョコのクセにブランデーでも入っていたのか? 紅く染まった頬と潤んだ瞳、少女らしくない色気を漂わせたキャロ。 「バクラさんの……味がします」 だが……この盗賊はどこまでも雰囲気を読まない。 「そんな味するはずがねぇだろ」 『コレ、死体を溶かして作ったんだが?』といわない辺りがバクラの優しさである。 結論……ラブでもバトルでもなく、バレンタインデーはエロスと言うのを目指してみた。 しかし30分そこそこではどうしようもない。 目次へ
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機動六課隊舎、スバルとティアナの部屋。 夜の訓練を終えシャワーを浴びて帰って来たスバルは、 先に帰っていたティアナがパソコンで見ている物に興味を示した。 「んー?ティア何見てるのー?」 「ん?…ああ、タカオのことをちょっとね。また出たみたいよ。」 タカオ。 二年前、管理局の士官学校の卒業式に突如現れ、 所持していた剣(後に日本刀という剣と判明)で卒業生を35名、警備員を8名、士官候補生を18名と、 合計61名を殺害した「血の卒業式」をきっかけに「エルセア連続辻切り事件」「魔導士七人殺し」etc... あまりにも多くの人を殺害していることと、AAAランク魔導士に匹敵するその戦闘能力のために 非魔導士でありながら管理局が殺傷設定での攻撃を許可している少年である。 公権力に真っ向から逆らい、大事件を幾度も起こしていながら未だに捕まらないせいだろうか。 そういうお年頃の少年少女達にとって一種のカリスマ的存在となっている。 もっとも、管理局員である二人はそうではないようだが。 「ふーん。…あれ、このタカオと戦ってる人誰?どこの部隊の人?」 その動画はニュースの物だろうか。 タカオと大剣を持った白髪の少年が戦っている様子が映し出されている。 白髪の少年の戦い方はどこか大雑把で、戦い慣れしていない様な印象を受けた。 「よく見なさい、魔法陣がさっきから一回も出てないでしょ。 局員でこんな質量兵器の所持が許された例なんて聞いたことが無いし …おそらくは同じ犯罪者ね。あ、もうあだ名が付いてる。」 「スラガ?変な名前だね。」 それは髪の色からか。 それとも大剣を振り回す姿が強打者に重なるからか。 どちらにせよ、変わったあだ名であることに変わりは無い。 「今回の被害はビルのヘリポートが暫く使えなくなった位で、死者は出なかったみたい。 …犯罪者にこう言うのもなんだけど、スラガのお陰なのかしらね。」 「でもこのスラガって人、小さい子を守りながら戦ってるみたいだし… だからきっと、悪い人じゃないよ。」 「あんたは相変わらずお人好しね。 ま、こいつらの話はこれぐらいにして…今度の休みは何処に行く? あたしは服買いに行きたいんだけど。」 「んーとね、わたしはそろそろこの携帯古くなってきたから 新しいの見に行こうかなーって…あ、メール来てる。」 手慣れた動作で携帯を操作するスバル。 どうやら迷惑メールだったようで、あからさまにうんざりとした顔になる。 「また迷惑メールだ…一噌のことアドレス変えちゃった方がいいのかなあ」 「今度買い換えるんでしょ?その時にしたら?」 「んー…………よし、やっぱり変えちゃおう。 思い立ったが吉日って言うしね」 というわけでさっそくアドレスを変更。 知り合いにそれを知らせるメールを送ろうとして…… (あれ?) 違和感を覚える。 アドレス帳に覚えのない名前があったからだ。 「…ティアー。ルキノ・リリエって人知ってるー?」「誰それ?知らないわよ、そんな人。」 「だよねえ。…何で登録されてるんだろう?」 その名に既視感を覚えながらも、アドレス帳から消去する。 それが、一人の人間の完全な喪失を意味するとも知らずに。 それから数週間ほどした休日の、 夕暮れのクラナガンのメインストリート。 二人はそれぞれの買い物を終え、帰路に着こうとしていた。 「で、結局どんなのにしたの?」 「F.L.A.Gの新しいやつ。可愛かったからこれにしたんだー」 そう言いながら新しい携帯を取り出して見せびらかす。 余程気に入っているのか、いつもよりご機嫌だ。 「あら、あんたにしてはいいセンスじゃない。」 「…それどーゆー意味ー。」 「そのまんまの意……スバル、あれ。」 会話を打ち切り、ティアナはパートナーにある方向を指し示す。 その先には、予想しえなかった人物が居た。 「……スラガ!?」 大剣を持つ白髪の男。 近くで見て初めて分かったが、まだ少年と呼んでいい年頃だ。 転移魔法でも使ったのか、先日画面の向こう側に居た人物がストリートの人ごみに突如現れた。 仮面を付けたスーツの男と対峙し、大剣を構えている。 (…マッハキャリバーの起動準備。不審な動きしたら取り抑えるわよ。) (もうしてるよ、ティア) 街中でのデバイス無断使用による始末書など気にしていられない。 何があろうとも迅速に動き、戦えるよう身構える。 その時、携帯電話が鳴った。 辺りの物全てが、一斉に。 (…こんな時に誰!?) 掛けてきた人物に苛立ちを感じつつ、携帯を取り出す。 そこに表示された名前は 「なのはさん?」 高町なのは。 二人の上司にして、戦闘の師の名前だった。 「え、ティアもなのはさんからなの?」 「…あんたも?」 おかしい。 二人同時に連絡が来るのは、業務に関する連絡の時ぐらいだ。 だが、業務に関する連絡は基本的にデバイスへと行われる。 だから携帯へのメールすら稀なのに、況してや電話。 しかも二人同時に掛けて来るなんて、明らかに変だ。 二人は顔を見合わせ、頷き合う。 「携帯には出ないで。何かが…」 告げようとした言葉は、爆音によって遮られた。 スラガがその剣で手近のショーウインドウを破壊した、爆音によって。 周囲の目を引いたそいつはそして、大剣を誇示するように頭上にかざし、必死な声で、叫んだ。 これ以上、自分と同じ「感染者」を増やさないために。 「ケータイ捨てろ!!! 今すぐだ!! 捨てない奴はこのスラガがぶった斬る!!!」 こうして、星-かがやき-のコールサインを持つ二人の魔導士と、嘘つきの刃旗使いは出会った。 この出会いを二人は喪失したのか、していないのか。 それは、刃旗使いしか覚えていない。 リリカルエンブリオ、始まりません。 単発総合目次へ その他系目次へ クロス別目次へ TOPページへ
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ガングレイヴODクロス短編 「狗と少女」 もし神様なんて奴がいたら、そいつはどうしようもねえ根性悪だ。 死に底無いの俺にまだ恥かかせようってんだからな。 俺は二度目の死を迎えた筈だった、ブランドン……いやビヨンド・ザ・グレイヴに再び敗れて塵と消えて死んだ。 でも俺は今どこかの下水を歩いてる、最後に受けた銃弾の傷がちゃんと残ってるからまだかろうじて息はあるようだ、夢や地獄の黄泉路じゃねえ。 まあとっくに死んでるのに息があるってのもおかしな話だがな。 でもまあ、日の光の届かない臭え下水路は俺みたいな狗畜生にはふさわしい死に場所かもしれねえ。 そんな皮肉を考えて苦笑していると目の前に小さなガキがいた、そのガキは何故か手に鎖で妙な箱を引きずっていた。 おまけにしゃっくりを上げて泣いていやがる。 俺はガキの鳴き声は好きじゃねえ、だからとにかく声をかけることにした。 「おいチビ、どうかしたのか?」 少女はその涙で濡れた美しいオッドアイで振り返りそして見た。 そこにはボロボロのコートを着て、顔にサングラスを掛け包帯を巻きさらに無精髭まで生やした異様な風体の男が立っていた。 少女は男のその姿に少し怯えるが、寂しさからか目の前の男の服の袖を掴んで涙混じりに言葉を漏らした。 「えぐっ…ママ…いないの…ぐすっ」 「そうか。っていうか泣くな鬱陶しい」 「ぐすん……そんなこと…いったってぇ」 男は泣き続ける少女の姿に呆れて面倒くさそうに頭をボリボリと掻く。 そんな所に突如として壁を破りながら数機の奇妙な機械が現われる。 それがガジェットドローンと呼ばれる戦闘機械であると男は知らない。だがかつて最高の殺し屋として名を馳せ、最強クラスの死人兵士でありシード改造体である彼は即座に反撃に移った。 彼は腕を振るかぶると服の袖口から拳銃を出して両手に構える、俗にガバメントモデルと呼ばれる系統の45口径拳銃を人外の膂力で操り銃弾の雨を浴びせてガジェットを一瞬で蹴散らす。 そしてついでに少女の手に巻かれていた鎖も撃ち砕いていた。 凄まじい銃声が鳴り響いた後には大量の薬莢が甲高い金属音を立てて下水路のアスファルトに落ち、ガジェットが残骸を晒していた。 あまりの早業に少女が唖然としていると、男は銃を袖口に仕舞いながら少女に声をかける。 その口調はまるで何事も無かったように。 「おいガキ、行くぞ」 「ふえっ?」 「ここで泣き喚かれたら迷惑だ、俺はもう永くねえんだからな。とにかく来い、安全な所まで連れて行ってやる」 男はそう言いながら少女に手を差し出す、少女は嬉しそうに彼の手を取った。 「うん、それとねあたしはガキってなまえじゃないよ? ヴィヴィオっていうんだよ?」 「そうかよ」 「おじさんは?」 「文治だ、九頭文治」 文治はヴィヴィオの手を引いてしばらく下水路を進んでいた、するとマンホールに繋がるハシゴに辿り着いた。 文治はまた袖口から銃を取り出してマンホールの蓋に銃弾を叩き込んで、外への道を開いた。 「それじゃあこっから先はてめえ一人で行きな」 「ふえぇ…ヴィヴィオひとり? おじさんは?」 「なんで俺が一緒に行かなきゃいけねえんだよ……邪魔だからさっさと行っちまえ」 文治にそう言われてヴィヴィオは涙を流すが、懸命に拭い去りハシゴに手をかける。 ヴィヴィオなりに文治に迷惑をかけたくないという強い想いが彼女に甘えを捨てさせた。 「うん…それじゃあバイバイ……ぶんじさん」 懸命に涙を堪えて笑顔を作って文治に別れを告げるヴィヴィオの顔に、さしもの文治もバツが悪そうにする。 そして文治は頭を掻きながらぶっきらぼうに声を漏らした。 「お袋に合えると良いな…あばよ………ヴィヴィオ」 その文治の言葉にヴィヴィオは満面の笑みを見せる、それはもう華が咲き誇るような愛らしさで太陽のように温かいものだった。 「うん♪」 「ああもう…そんな笑うんじゃねえよ、気色ワリイ……早く行っちまえ」 「わかった、バイバイぶんじさん♪ またね」 嬉しそうにそう言いながらヴィヴィオは日の光の射す明るい外の世界へと上っていく。 まるでそれは、血に濡れた自分と無垢な少女の姿をよく現しているようで文治は思わず皮肉めいた苦笑を漏らす。 「まったく俺みたいのに懐くなんて、男を見る目がないぜ……それにもう会う事はねえよ」 文治の身体はあちこちに亀裂が入り、死人兵士としての終わりが近い事を物語っていた。 そんな彼の下に再びガジェットが現われる、それも先ほどのような少ない数ではない。 ガジェットは文治の周囲を数十体の編成で取り囲む。 「まったく、しつこい野郎共だぜ……どうせこれが最後だ…それじゃあ俺も本気で行くから、てめえらも本気で来い!」 文治はそう言うと、手に二丁銃を構え身体から青い炎で作られた狼を出す。 そしてその青い炎の狼は遠吠えを上げてガジェットに襲い掛かり、次々に鉄屑へと変えていく。 体内のエネルギーを炎の狼と化して敵を爆砕するこの技こそがシード化した九頭文治の最高の攻撃である。 両手の二丁銃の弾丸が舞い、爆炎の狼が駆ける。 瞬く間にガジェットの群れは倒し尽くされ、無様なガラクタへと変わった。 最後の戦いを終えた文治はガジェットの残骸の上に腰掛けてタバコに火をつける。 思い切り吸い込んで煙たい美味さを味わうと嬉しそうな笑顔を見せた。 「へっ、まあこんな最後も悪くねえか……この先は俺みたいな男に関わるんじゃねえぞ、ヴィヴィオ」 文治は下水路の天井を見上げながら、きっと明るい日向を歩いているだろう少女に向けて最後の言葉を漏らした。 次の瞬間には彼の身体は青き塵へと変わり風と消え、後にはサングラスと二丁の拳銃だけが残された。 だが少女の記憶にはいつまでも残るだろう、少し恐いけど優しい、九頭文治という男の名前を。 終幕。 作者ページ 単発総合目次へ その他系目次へ TOPページへ
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「ど、どうなっ、てんだよ、コレ……」 かつては”破壊する突撃者”の二つ名が元、戦闘機人”ナンバーズ”の中でも最強の突破力を誇っていた、赤毛の少女 ノーヴェですら今は、その眼前に広がる光景に言葉を失い、まるで凍て付いたかの様に立ち尽くすばかりだった。 その黄金色の瞳を大きく見開いて彼女が見詰める前で今、街の......いやクラナガン、強いてはミッドチルダ全体にと って経済的シンボルとなっていた、ミッド貿易センター第三ビルの玄関前広場と表通りは今、文字通り阿鼻叫喚の地獄絵 図と化していたからだ。 それは十数分前の事...... 新暦82年5月11日の午後23時30分を約15秒は過ぎた頃 魔導師部隊からの連絡を受け、待機していた108部隊ならびに本部警備課の陸士全員が、第三ビルの玄関前で一斉に 態勢へと入り、そうして犯人逮捕の瞬間を今か今かと待っていた時である。 皆が見上げる中、地上40階建てはあるビル屋上から突如、まるで黒い翼を持つ死神の如く黒服の紳士が、着込んだ外 套を大きく翻しながら飛び降りたかと思うと、猛スピードで見る間に地上へと落下する。 だが見上げていた陸士や捜査官達が、その後に来る犯人の末路を見まいと眼を背けた瞬間である。 落ちてきた黒服の紳士は、空中で身体を捻る様にして姿勢を整えるや、冷たく硬いコンクリートの路面に叩き付けられ る事無く鮮やかに着地する。 その際に巻き起こった風圧で、犯人の近くに居た者達が一瞬、身体が浮かんだかの様な錯覚を起こし踏鞴を踏んだ。 いったい何が起こったのか、すぐには理解できぬまま皆が顔を上げた時、そこには着地の際に出来たクレーターの様な 浅い窪みの中に立ち、服に付いた埃を軽く払いながら辺りを見回す紳士の姿があった。 相手の姿を見るや陸士達は、すぐさま持っていた銃器やデバイスを構え、相手との距離を取りながら涼しい顔で立つ紳 士を包囲する。 が悪夢が訪れたのは、その直後だった。 *リリカルxクロス~N2R捜査ファイル 【 A Study In Terror ・・・第五章”殺戮のオデッセイ” 】 一人ひとりが強力な武器を手にし、そして男女を問わず皆が闘う為の厳しい訓練を潜り抜けた、地上本の精鋭達が大凡 でも100名、いやそれ以上の数かもしれない。 そんな彼らが周りを取り囲む中、表通りをガードする班のリーダーが投降を呼びかけた時だった。 ほんの数歩......前に向かって紳士が歩み出したかと思うと、そこから凄まじい跳躍で包囲する陸士達の上を軽やかに 飛び越えた。 そのまま相手の背後へと着地するや紳士は、振返り様にステッキから仕込みの両刃を素早く抜き放ち、それを唖然とす るリーダーに向かって大上段から一気に振り下ろす。 その間たった数秒...... 何か柔らかく水っぽい物が、堅いコンクリートの上に零れ落ちるビチャビチャ!っという音に周囲の者が気付き、皆が 一斉に音の聞こえた方へと目を向けた。 そこには悲鳴すら上げる間も無く路面いっぱいに自分の血と臓物をブチ撒けた上、その身体を真っ二つに両断されたリ ーダーの骸が無残に転がっていた。 ピクピクと痙攣しながら、生々しい切断面を晒す死体を前に紳士は、右手に握りしめた両刃を大きく振るい、刃に着い た血脂を払うと鮮やかな手つきで剣を鞘へと素早く収める。 そして女性陸士達の上げた絶叫を切欠に、惨劇の幕が上がった。 周囲の警備課陸士たちの持つ自動拳銃やサブマシンガンが一斉に火を吹くも、黒服の紳士はビクともせず魔導師達が放 つ魔力弾すら造作も無く避けて行く。 更には警棒を手に向かってくる大男の陸士達を素手で次々と倒しながら紳士は、優雅さすら漂う足取りで広場を突き進 んで行く。 そのまま広場の駐輪スペースへと来るや彼は、そこに停められていた大型バイクを片手で軽々と持ち上げ、それをハン マーの様に振り廻しながら、周囲に居た相手を片っ端から薙ぎ払う。 屈強な精鋭たちが次々と、まるで木の葉の如く宙を舞っていく。 そんな中、遅れて駆け付けた13分署の魔導師たち数名が、相手に目掛け杖型デバイスから放った魔力弾が、今まさに 自分達の上に振り下ろされんとするバイクに命中し、たちまち真っ赤な炎を上げて大破する。 だがそれでも”黒衣の怪物”の蛮行は止まず、手に持っていた凶器が破壊されたと見るや、重量200kgはあろうか という大型バイクを、まるで紙屑でも捨てるかの様に放り投げた。 そしてまたも驚異的な跳躍で魔導師達の上を飛び越え、その背後へと降り立つや素早く引き抜いた両刃で、相手5人の 首を殆ど一振りで瞬時に撥ね飛ばす。 次々と路面に転がる魔導師達の首の無い骸。その内の一体が握っていたデバイスが暴発し、流れ弾となった魔力弾が広 場に停められていたパトカーを直撃し、轟音とともに真っ赤な火柱が立ち上る。 その直後、大破したパトカーからバンパー部分を引き千切るや、それを武器に黒服の紳士は逃げ惑う陸士達や、デバイ スを構え束になって突っ込んで来る魔導師達を、情け容赦なく薙ぎ倒して行く。 「なんで、なんで……」 無数の銃声が轟き、数え切れぬほどの魔力弾がオレンジの輝きを放ちながら、まるで花火の様に宙を飛び交う。 そんな中で黒服の紳士は右手に持つ車のバンパーを豪快に振り廻し、その度に屈強な地上本部の精鋭たちが絶叫ととも に男女を問わず吹っ飛ばされて宙を舞う。 「なんで、そんな……」 そして今、その混沌とした悪夢の様な状況を前に、瞬きすら出来ぬままノーヴェは......かつては”突撃者”の二つ名 を欲しいままにしてきた少女は、その身体の奥底から湧き上がる死の恐怖に震え慄いていた。 「なんで、そんな簡単に……」 彼女の顔からは徐々に血の気が失せて行き、紫色になった小さな唇をワナワナと震わせ、込み上げる嘔吐感に思わず口 元を押さえる。 それでも倒れまいと、必死になって身体を起こそうとするノーヴェだったが、ガクガクと震えだした為か両脚に力が入 らず遂には、その場にガックリと膝を落とした。 「……簡単に人を、殺せるんだよ」 あれは、あの”怪物”はいったい何なのだ? 何故あの男は、あんな容赦なく人を殺せるのだ? デバイスはおろか魔法すら使わず、かといってIS等と云った質量兵器を駆使する訳でもない。 原始的な武器と素手のみで軽く100人は越える数の相手を容易く翻弄し、その命を何の躊躇も無く奪って行く。 まるで呼吸をするかの如く...... それが当たり前の事であるかの様に...... そんな容赦の無い光景を前にノーヴェは、その場に跪く様な姿勢のまま怯え切った眼で、恐るべき暴威を振う怪物に向 かって狂った様に叫び続けるばかりだった。 「なんでだよ!!なんでそんな事が出来るんだよ!!!」 **************************************** 黒衣の怪物が繰り広げる蛮行を前にし、生まれて初めて抱いた”恐怖”の感情にノーヴェが、悲鳴にも似た叫びを上げ ていたのと同じ頃...... 「頼むトマス、そっちで援護してくれ!」 「え、援護しろ、って……一体お前、何するつもりだ!?」 未だ戦場の如き騒乱の止まぬ表通りの外れでは、そこに停められた第108部隊の装甲車が一台 その運転席では車両部隊の制服を着た陸士ケンプが、なかなか始動しないエンジンの起動セルと格闘しながら、もう一 人の陸士トマスに向かって怒鳴り声を上げた。 「だから昇降口んとこの機関銃で、あのバケモンを足止めするんだ!」 「あ、足止めって、さっき見たろ!?機関銃ぐらいじゃ奴は……」 「違う!アイツの足元狙って撃ち捲るんだ!!そうすりゃ、奴だって身動きは出来ない」 銃声やデバイスの射撃音に混じり、数え切れぬ程の悲鳴や断末魔の叫びが聞こえる中、空しく響くセルモーターの音と 融通の利かない相棒の態度にケンプは苛立ちを募らせて行く。 そうして彼が何度目かに起動セルのキーを捻った時、まるで獣が唸るような音を立てて遂にエンジンが始動する。 「よし!よしよしよしよし!良いぞ良いぞ良いぞ。後はコイツで、あのバケモンを踏み潰してやる!」 ようやく動き始めたエンジンの音に狂喜しながら彼は、すぐさま震える手でギアをローに叩き込み、アクセルを目一杯 に踏み込んで装甲車を急発進させる。 まるで岩を思わせる程に頑丈な八つの車輪から、地響きの如き轟音を響かせながら二人を乗せた装甲車が見る間に速度 を上げて行く中、昇降口から半身を乗り出していたトマスが口元のマイクに向かって叫び声を上げた。 「居たぞ!こっから二時の方角だ!!」 彼の叫び声を聞くや運転席の狭い窓からケンプが、その前方へと視線を向けると第三ビルの玄関前広場から、右手に持 つ車のバンパーで周囲を走り回る陸士達を蹴散らしながら、黒服の紳士が表通りへと出る姿が見えた。 「よし撃て!足元狙って撃て!!」 ヘッドフォンから響く彼の怒鳴り声を聞くやトマスは、すぐさま昇降口に取り付けられた大型の7.62mm機関銃の 照準を、標的の足元に合わせる 緊張で汗ばんだ手を震わせながら彼は、その指でトリガーを一気に引き絞る。 闇を引き裂くが如く銃口が火を吹き、銃弾の雨が紳士の足元で弾けて火花を散らした。 そして装甲車は逃げ惑う陸士達を掻き分ける様にしながら、未だ暴れ続ける”黒衣の怪物”を目掛け、猛スピードで突 っ込んでいく。 だが...... それでも黒服の紳士は怯む事は無く、左足を前に踏み出しながら右手に持つバンパーを大きく振り被る様にして構える と、それを自身に向かって突進する”鋼鉄の猛牛”が如き装甲車に目掛けて投げ放った。 放たれたバンパーは槍の如く風を切り、そのまま装甲車の運転席へと命中する。 それは装甲板と分厚い防弾ガラスを突き破り、悲鳴すら上げる間もなくケンプの頭を粉々に砕くと、派手にブチ撒けら れた鮮血と脳漿が運転席を真っ赤に染めた。 コントロールを失った装甲車は、たちまち横転するや辺りに部品や鉄片を撒き散らして道路の上を派手に転がる。 それを眺める紳士の前で既にスクラップ同然となった装甲車は、逃げ遅れた陸士を何名か巻き込み、その勢いのまま路 上に停車していたパトカー数台を押し潰すや轟音と共に大爆発を起こす。 深夜の空を赤く染める様にして、高く立ち上る火柱を背に黒服の紳士は惨劇の場を悠然と後にする。 が、その時である。 「 そこで止まりなさいっ!!! 」 彼の背後から響く力強い少女の声。 その場に立ち止まり、ゆっくりと振返りながら紳士が目線の向けるや、その先に見えたのは、鍛え抜かれ程良く引き締 まった肢体を、ピッタリとしたバリアジャケットに包んだ少女が一人...... その可憐な容姿とは不釣り合いな程に、武骨な印象を受ける頑丈なリボルバーナックルを左腕に装着し、輝く様なグリ ーンの瞳から強い眼光を放つ様に、外套の裾を夜風に揺らして立つ殺戮者の姿を真っ直ぐに見据えていた。 **************************************** 「私に何か御用ですかな?お嬢さん……」 良く通る深みを帯びた声で黒服の紳士は、彼を睨む少女に向かって口を開いた。 物静かで落ち着いた口調で喋りつつも、その眼差しは剃刀の様に鋭く狂気を孕んですらいる様にも見える。 相手を見下ろす様にして立つ彼の姿を前にすれば、気弱な者ならば失神しかねない程の威圧感を伴っていた。 「貴方を、第一級殺人罪で逮捕します。今すぐ武器を捨てなさい!」 そんな恐るべき相手を前にしても少女は決して引く事無く、道路の向こうに立つ”怪物”に向け、怒気を孕んだ声で投 降を促した。 「もし”断る”と申し上げたら、如何なさいますか?」 だが彼女の言葉を耳にして尚も黒服の紳士は態度を崩すことは無く、それどころか逆に薄ら笑いを浮かべながら、挑発 とも受け取れる言葉で質問を返す。 「その時は、成すべき事を……」 紳士からの返事を聞くや少女は、その言葉に一段と力を込めて喋りながら、わざとゆっくりとした動作で身構える。 少し腰を落としながら左足を後ろへと引き、そして拳を固く握りしめたままリボルバーナックルを装着した左腕を、後 ろに大きく振り被った。 「……果たすまで!」 シューティングアーツ 近代ベルカ式魔法に基づいた格闘術の構え 一部の隙も無く、全身から燃え上がる様な闘志を放ち、自身が討ち倒すべき”怪物”を見据える少女。 そんな彼女の姿を前に黒服の紳士は、声を立てる事無く一言『美しい。何と見事な』と呟くや、左に持つ長い仕込み杖 の、そのドラゴンの頭を象ったグリップへと手を掛けた。 「では此方としても、是非お受けせねば……」 鋼が擦れ合う音が不気味に響く中、仕込みの鞘から鋭く長い両刃が引き抜かれる。 その研ぎ澄まされた刃が、暗闇の中で妖しく輝いた。 「……なりませんな」 ほんの数秒間 そう実際は数秒のこと。だが対峙する双方にとっては、何時間にも感じられた。 惨劇を生き残った陸士や魔導師達と、遅れて駆け付けた約20名の特機隊が魔導師達、各々が銃器やデバイスを構えな がら息を飲んで見守る中、最初に動いたのは...... 《Master 来ます!》 「トライシールド!!」 デバイスからの警告に少女が叫び声で応えるや、近代ベルカの魔法陣が瞬時に展開。 黒い外套を翼の様に翻しながら紳士が素早い跳躍により彼女の背後へと降り立ち、その頭上を目掛けて振り下ろした刃 を殆ど紙一重で食い止める。 「やるな、お嬢さん……」 右掌で展開した紫に輝く魔法陣を盾に、凄まじい怪力で振り下ろされた両刃を、見事にガッシリと受け止めた少女に向 かって黒服の紳士が不敵に笑い掛ける。 だが彼女は返事をする代わり『破っ!!』という気合と共に、受け止めた両刃もろとも相手を一気に弾き飛ばす。 後方へと飛ばされた紳士は、その大柄な身体を空中で一回転させるや、そのまま路上へと鮮やかに降り立った。 「ならば、これは如何かな?」 そう言い放つや黒服の紳士は、強烈な踏込みで路面を抉るや、相手との間合いを瞬時に詰める。 常人離れした怪力とスピードで、少女に向かって怒涛の如く叩きつけられる両刃の斬撃。 「ディフェンサー!!」 《All right!》 彼の190cmは有る長身から猛然と振り下ろされる、冷酷な刃を全て防御魔法で弾いていく少女。 だが紳士の猛攻は凄まじく、上からだけでなく左右から下方からと縦横無尽に凶刃を振い、相手に反撃する余裕すら与 えず、また一切の躊躇も無く少女を圧倒する。 その衝撃と振動が半円形のシールド越しに彼女の腕へビリビリと伝わり、相手が恐るべき怪力で刃を叩き込む度に少女 の身体は、そのまま後方へジリジリと押されて行く。 ”このままでは……” 「ブリッツキャリバー、お願い!」 《All right!Knuckle Duster!》 主からの指示にデバイスが応えるや、空カートリッジを排出しながら魔力を充填、少女の左腕でリボルバーナックルが 唸りを上げて始動する。 回転するリボルバーフィンが風を切り、高速で繰り出された少女の左拳が火花を散らしながら、猛然と振り下ろされた 紳士の刃を弾き返す。 一瞬の隙を突き反撃へと転じる少女。 その両足に装着したローラーブーツを稼働させ、その勢いを借りて繰出した脚撃を、目前に立ちはだかる”怪物”に向 かって素早く叩き込む。 その反撃を黒服の紳士は、後方に向かってバックステップで高く跳躍しながら、わずか数mmの差で避け切った。 再び双方が互いに間を空けて睨みあう中、身構える少女の胸元から不意にパキン!という不吉な音が響く。 「っ!?こ、これは……」 すぐさま自身の身体へと視線を向ける少女。 見れば胸元をガードする銀色のプレートに、酷いヒビ割れが大きく斜めに刻まれていた。 「なるほど。つまり貴女は、この世界のサムライという訳ですな」 その言葉に少女が顔を上げると、そこには大きく千切れ跳んだ外套の裾を、仕込みの鞘を持ったまま左手で軽く摘まみ 上げる紳士の姿が見えた。 「これは面白い。では尚の事お相手せねば、無礼になりますな」 挑発の言葉に物静かな殺意を滲ませながら、右手に持つ両刃を握り直す黒服の紳士。 「……望む、ところです!」 そんな相手を前に少女は、キリキリと音を立てて両の拳を握り締める。 その瞳の色を澄んだグリーンから、自身の怒りを表すかの如く黄金色へと変えて...... **************************************** 「頼むッスよぉギンガ…ヤバくなったら直ぐ逃げるッス。逃げなきゃ駄目っス!」 そう不安げに呟きながらウェンディは、姉の身を案じつつ眼下で行われる闘いを、自身のデバイス”ライディングボー ド”の上から固唾を飲んで見守った。 「に、逃げろよギンガ!あんな、あんなバケモノ相手に一人じゃ……」 武器を構える魔導師達に混じって同じくノーヴェが、まるで悪意の化身が如き”怪物”を相手に、たった一人で果敢に 戦いを挑む姉の姿を食い入る様にして見詰める。 それは彼女たちだけでは無く、その場に居た全員が身動ぎすら出来ぬまま、目前で繰り広げられる死闘に見入る事しか 出来ないでいたのだ。 もう既に銃声やデバイスの射撃音は止み、静まり返った表通りでは、無残に破壊されスクラップと化した車両から噴き 出す炎が、辺りを煌々と照らす中で二つの影が激しく火花を散らしていた。 「いったい貴方は、何が目的でこんな事を!?」 リボルバーナックルの少女ギンガが問い掛ける。 自身に向かって刃を振う”怪物”に対し、己の拳と共に叩きつける様にして。 「もし御自分の事を利口だと御思いなら、理由はご自身で考えなさい」 だが彼女の問い掛けに対し、あくまで黒服の紳士は挑発の言葉でもって応える。 そのスキップを混じえた優雅な跳躍で、ダンスでも舞うかの如く相手を巧みに翻弄しながら。 「良いですな、フォックストロットは得意中の得意ですぞ」 「黙りなさい!!」 闘いの相手を侮辱するかのごとく、この死闘を社交ダンスの舞に例える黒服の紳士。 そんな彼の挑発に乗るまいとギンガは、己が内から湧き上がる炎の如き怒りを必死で抑える。 だが黒服の紳士は無駄な動作を一切見せず、彼女の繰出す攻撃を全て左手に持つ仕込みの鞘で弾き、更には軽やかなス テップで右へ左へと風の様に素早く移動しながら、相手の死角へと周り込んでは鋭い刃を猛然と振った。 その度にギンガは展開した防御魔法と、左腕のリボルバーナックルで相手の斬撃をブロックするが、それでも避し切れ なかった刃が、彼女の体に痛々しい傷を幾つも刻んで行く。 「……も、もう、見てられないっス!」 闘いの行方を上空から見守っていたウェンディだったが、時間が経つにつれ傷だらけになっていくギンガの姿を目の当 たりにし、遂に堪え切れなくなったのか援護に向かう為、自身のデバイスに指示を出そうとする。 ......だが 【駄目よ!二人とも、そこに居て!】 リンクを通じ上空のウェンディと、そして陸士達とともに地上で闘いを見守っていたノーヴェの元に、逸る二人を押し 留めるギンガの声が響いた。 【でも、このままじゃあ……】 そんな妹の言葉を振り切るかのごとく彼女は、先行きの見えない闘いに終止符を打つべく、思い切った手に出た。 黒服の紳士が繰出す両刃の刺撃をギリギリで避け、その刃が左わき腹を掠める痛みを堪えながら、踏み出された相手の 膝を足場に相手の頭上を高く飛び越えながら...... 「ウィングロード!!」 《All right Master!》 デバイスに向かってギンガが指示を飛ばすや、パープル色の輝きを放つ帯状の魔法陣が空中で展開。 その上を彼女がローラーブーツを稼働させながら、その青い長髪を風に靡かせる様にして高速で走り抜ける。 そして加速しながらウィングロードの上から、眼下で両刃を構える黒服の紳士に向かって左拳を叩き込む。 フィンが唸りを上げて風を切り、凄まじい勢いでリボルバーナックルが繰り出され、それを紳士が空かさずブロックす るも、眩い程の火花を散らしながらギンガの左拳が彼の左手から仕込みの鞘を弾き飛ばす。 その勢いのまま更にギンガは身体を素早くスピンさせ、右からの脚撃を相手に向かって猛然と叩き込む。 それは紳士の着る黒い外套の裾を更に千切り飛ばし、その下に着ていた紳士服の脇を大きく切裂く。 その瞬間、周囲で見守っていた陸士や魔導師達の間から、ドォっ!と歓声が上がった。 それでも怯む事無く黒服の紳士は素早くバックステップで跳躍し、相手との間を取るや右手に持つ両刃を脇に構えて左 手を添え、ギンガに向かって路面が抉れるほどの踏み込みで猛然と刺突を繰出す。 すぐさま彼女はローラーブーツを急稼働させ、その切っ先を紙一重で回避しながら跳躍し、相手の頭上を飛び越えなが らウィングロードを展開する。 だが、それを見るや黒服の紳士は近くのビルに向かって数歩駆け出したかと思うや、またも踏み込みで路面を抉りなが ら高く跳躍し、そしてビルの壁面を足場にして更に高く跳躍する。 そのままウィングロードを走るギンガの真上へと来るや、空中で右手に持つ両刃を大きく振り上げた。 「っ!?ディフェンサー!!」 間一髪入れず防御魔法を展開し、すぐさま頭上からの攻撃をブロックするギンガ。 だが次の瞬間! 彼女が展開した半円形のシールドと黒服の紳士の間で突如、稲妻の如き閃光が奔ったかと思うや、まるで地震でも起こ ったかの様に表通り一帯を激しい揺れが襲い、その場に居た者全員が脚を取られ倒れそうになった。 もうもうと立ち込めた粉塵が辺りを覆う中で、闘いの行方を上空から見守っていたウェンディが目にした物は、まるで クレーターの様に大きく抉れた道路と、その中心で仰向けの状態で大の字になって倒れる...... 「ぎ、ギンガ!?そんな……」 **************************************** 「いやいやいや、貴女のその勇気と闘志には、流石の私も感服いたしました」 感嘆の溜息を漏らしながら黒服の紳士は、右手に持っていた両刃を拾い上げた仕込みの鞘へと戻し、そして道路上に出 来たクレーターへと降り立つ。 上空で見守っていたウェンディを含め、周囲の者たちには何が起きたのか直ぐには理解出来ないかった。 あの時、ウィングロードの上を疾走するギンガの頭上へと、黒服の紳士が高く跳躍した時、その攻撃をブロックする為 に彼女が防御魔法を展開した瞬間である。 その半円形のシールドに向かって紳士は、振り上げた両刃では無くグリップを握り締めたままの右拳を、落下速度を利 用する様にして叩き込み、展開したシールドごと相手の身体を下の路面へと叩き付けたのだ。 まるでガラスの如く粉々に砕け散ったシールドが今、クレーターの中に横たわる主の上へと、パープル色に輝く粒子と なって音も無くゆっくりと降り注いでいた。 「しかしそんな貴女も、ニューヨークで私を捕えたサムライに比べれば……」 死闘の末にヨレヨレとなった外套を揺らしながら黒服の紳士は、凄まじい衝撃と共に全身を路面へと叩き付けられ、傷 だらけで身動きのとれぬ状態となったギンガの傍らへと立った。 「……残念ですが、今一歩と云う処ですかな」 「くっ!」 苦悶の呻きとともに悔しげに睨む彼女を、紳士は悠然と見下ろす。 それを見て遠巻きに包囲していた陸士や魔導師達が、一斉に銃器やデバイスを構えるも誰ひとりとして、そのトリガー を引き絞るまでには至らなかった。 その場に居た全員が、目前に立つ”黒衣の怪物”を恐れていたからだ。 もし今その内の誰かが発泡すれば怒り狂った”怪物”が、恐るべき刃を抜いて更なる死体の山を築く事になる。 何も出来ぬまま皆がボロボロに傷付いたギンガを、その傍らから見下ろす黒服の紳士の姿を、身動ぎすらも出来ずに凝 視していた時である。 「止せッ!今すぐ彼女から離れろ、このバケモノ!!」 その声にクレーターの中から紳士が陸士達の方へと顔を向けると、そこには制服姿の青年が一人アサルトライフルを手 に、陸士達の列から飛び出そうとする姿が見えた。 「駄目です陸尉!行っちゃ駄目です!」 「は、放せ!皆なにしてんだ!?このままじゃ彼女が……」 額から血を流しつつも彼は、自身を引き留めようとする陸士達の手を振り払い、たった一人で”黒衣の怪物”に立ち向 かおうとしていたのだ。 「頭冷やしなさいラッド!そんなライフル一丁で、あんな怪物相手に勝てるとでも……」 「止めないで下さい!あのままじゃ、あのままじゃ彼女が、ギンガが殺されちまう!!」 「だからって!いま行ったらアンタまで返り討ちにされんのがオチよ!」 周囲に居る仲間たちだけではなく、友人と思しき私服の女性に背後から羽交い絞めにされながらも、制服の青年ことラ ッド・カルタス陸尉は今まさに傷付き倒れた部下を救わんとしていた。 そう彼の叫ぶ言葉の通り、このまま何もしなければ皆の為に命懸けで怪物に立ち向かい、そして凄まじい死闘を繰り広 げた末に傷つき倒れた仲間を、むざむざと見殺しにしてしまう事になる。 だが今あの怪物と闘って倒せるだけの力と勇気を持った者は、その場には誰も居なかった。 思い切った行動に出られぬジレンマに皆が焦燥感を募らせる中、それを見ていた黒服の紳士が物静かに口を開いた。 「もしかして、あの方は貴女の恋人?それとも婚約者ですかな?」 落ち着いた声で問い掛ける彼の言葉に返事をする事無くギンガは、ただ黙ったまま黄金色から再びグリーンへと戻った 瞳を潤ませながら、彼女を救おうとして叫ぶラッドの声が響く方へと顔を傾けていた。 ”主任、みんな……ごめん” そう心の中で呟く彼女の目からは、いつしか熱い涙の滴が零れ始めていた。 「では御心配無く。その貴女の闘志と……」 そんな彼女の姿を見下ろしながら紳士は、その右手を徐に懐へと差し入れると、わざとゆっくりとした動作で何か細長 い物を抜き出した。 それは銃剣...... 古風で、しかも刃渡りが40cmはあろうかという異様に長い銃剣 その研ぎ澄まされ鏡の如く磨き抜かれた刀身が、暗闇の中で鋭く妖しい輝きを放った。 「そして貴女の恋人に免じて、苦しまぬよう一息で……」 一瞬間を置く様にして黒服の紳士は、まるでサーベルの様に長い銃剣を逆手に素早く持ち替えたかと思うや、それを大 きく高く振り上げ、その切っ先を眼下に横たわる少女の胸元に目掛けて一気に...... 「ヤぁめろぉぉーー!!!」 「ギンガぁぁーー!!!」 周囲の仲間達に引き留められながらカルタスが、そして上空でウェンディが上げた叫び声が重なり合って響く。 と次の瞬間! デバイスの凄まじい射撃音が辺りの空気を震わせ、放たれた魔力弾が紳士の右手から銃剣を弾き飛ばす。 弧を描く様にして落ちた刃が、堅いアスファルトの路面上で甲高い金属音を響かせて撥ねた。 ほんの一瞬ではあったが突然の事に彼が、空になった自身の右手を呆然と眺めた時...... 「 させるかよォ!! 」 その力強い叫びを聞き黒服の紳士が、いやその場に居た全員が一斉に声の聞こえた方向へと視線を向ける。 そこに見えたのは右腕に装着したガンナックルを構え、先に倒された姉と同じ黄金色の瞳で目前に立つ”怪物”を見据 えながら、紅い短髪を振りみだす様にして立つ少女の姿。 自身が倒れている場所からは姿こそ見えなかったものの、叫び声を聞き驚きの表情を浮かべるギンガの口から、その少 女のものと思しき一つの名前が零れ落ちた。 「……の、ノー…ヴェ?」 ・・・・・・Until Next Time
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魔術士オーフェンStrikers 第九話 「我は放つ光の白刃!」 呪文と共に指先から放たれた純白の熱波が暗闇を切り裂きながら標的―――ダミアンへと一直線に迸る。 「…………」 だが直撃すると思われた瞬間、彼が迫る光弾に手を差し向け軽く指を振ると熱衝撃波はフッと、音一つ立てずに消失してしまった。 「…再会の挨拶にしては手荒いな」 差し出した右腕をローブの中にしまいながらダミアンがボソリと呟く。 「コミュニケーションに失敗すると人間ってのは攻撃的になるんだよ。覚えとけ」 通じないのは分かっていたため特に動揺もせず目の前の男に向けて皮肉を吐きながら視線を辺りに巡らせる。 (俺は…転移させられたのか。にしてもあんな一瞬で、しかも呪文すら唱えずに、だと?ったく、嫌になるぜ…) 暗闇であるため細かい場所は分からないが足元から伝わってくる列車の振動音からしてモノレール内の…まぁ、どこかと考えて間違いはないだろう。 「…エリオとキャロは?」 と、つい先ほどまで隣にいた仲間がいない事に気づき、自然声を尖らせながら目の前の男に問いかける。 「そのように睨まれてもな…。さっきの子供達の事ならば案ずるな。危害を加えるような真似はしていない。理由が無いだろう?」 「アンタの言葉を信用できた事なんざ一度たりとも無かった気がするよ。…まぁいい。で?俺に何の用だ?今更リベンジってわけか?」 「ふむ、正直考えていなかったと言えば嘘になるが…。まぁ止めておこう。私が一対一では君に及ばないのは証明済みだろう?生憎まだ消えるわけにはいかない」 「…? なら―――」 「解らないかね?私は君に問うためにここに来たのだよ。私が舞台から刎ねた後、魔王の召喚は成ったのか。女神の抹殺は果たされたのか。 アイルマンカー結界は。ドラゴン種族は。聖域は。人類は。領主様は―――!!」 「………………」 「―――大陸は救われたのか?私はそれを知る必要がある。義務があるのだよ…」 そう締め括るダミアンを苦々しい心持ちで見つめる。…今の彼の言動で確信した。この男は知らない。 キエサルヒマ大陸では女神が今だ健在だという事も、領主が死んだ事も、キエサルヒマ大陸を覆っていた結界を自分が破壊した事も、 ディープ・ドラゴンが…一匹を除いて全滅してしまった事も。 恐らく領主の館で死んでから先の情報をこの男は何一つ持ち合わせていない。 (そして逆に言えばこの男は一度死んでから生き返ったという事でもある、か。ふざけんな、そんな事が―――) あるはずがない、とは言えない。信念や宗教で事実を覆せるのなら苦労はいらない。 (まぁいい。今一番の問題はこのミスター幽霊が敵なのか見方なのかサッパリ分からないって事だ) 聖域との抗争が終わった以上、お互いに引き摺らなければ敵対しようはずもない。問題は、そう問題はこの男のさっきの言葉だ。 大陸の現状―――。 それがこの男の思い描いていた大陸の姿にどれだけ近づけていたかで話は変わってくる。 (腹が読みにくいって意味じゃダントツだからな、コイツは。不満が残る結果聞かされた時どうゆう行動に出るのかサッパリ予想が付かねぇ…) 迷う。話してもいいものか…。 悩みながらも目の前の男からは視線を逸らさず、暗闇の中で睨み合う事数分、根負けしたようにダミアンが盛大なため息を吐く。 「だんまりか…。まあいいさ」 「なに?」 「君の事はそれなりに理解しているつもりだからな。そう、こうゆう局面でどのような手を打てば君の口が軽くなってくれるのかくらいには…」 そう言うとダミアンは背後から一つの小さなケースを取り出すと自分に見せるように掲げる。ケースの中には赤い宝石が紅光を放っている。 「これが何か分かるかね?」 「……?」 「……君は回収対象の形状すら把握していなかったのか?」 見当が付かず眉を顰める。と、それを見たダミアンは呆れたという風にこめかみに人差し指を当て首を左右に振るようなジェスチャーを見せる。 「ほっとけ。貨物車両内に着いたら向こうの奴らが通信で誘導する事になってたん……ちょっと待て。てことは」 「話が早くて助かるな。ああ、これがレリックという物らしい。私も最初見た時は驚いた。いや、信じられなかったな。 こんなちっぽけな結晶に使い方次第で町一つを吹き飛ばせるほどの力が秘められているというのだから…。―――さて、私が何を言いたいのか分かるかね?」 そう言ってケースを床に置くと再びダミアンがこちらに問いかけてくる。顔も口調も無愛想そのものだが、言葉の内容には無視出来ないものが含まれていた。 「…ふざけやがって。何が危害を加える理由はない、だ。人にものを頼むのにいちいち相手の弱みを握っておかなけりゃ気が済まねぇのか?」 不機嫌を隠そうともせずに呟く。何が言いたいのかなど聞くまでもない。今この場所にレリックがあるという事実と目の前の男の性格と能力、 この二つの情報を鑑みれば自ずと答えは見える。 レリックがあるという事はこの場所が貨物車両内である事は間違いない。ここにガジェットが一体もいない事からもそれは窺える。 問題は自分が転移させられる前、この場所に後一歩という所まで迫っていたという事。すなわち――― 「エリオとキャロに何をしやがった…」 自分と行動を共にしていた二人の仲間が突入してくる気配が全く見られないという事だ。 「ふむ…説明の手間が省けるのは助かるが誤解は困る。今回の「これ」は私の友人が勝手に気を回してくれただけであって私の意図では―――」 「同じ事だろうが!!」 セリフを遮るように腕を横に振りながら叫ぶ。すでに苛立ちは最高潮に達していた。するとダミアンはやれやれとでもいうように肩をすくめる。 「なるほど…。やはり自分よりも他者の危機に熱くなる所は相変わらずか。いいだろう」 そう言うと白魔術士はこちらの背後、暗闇に包まれている方に向けて凝らすように目を細める。 「先の質問に答えるが―――あの子供達は今の所無事だ。…今の所はな。だがどのみちあの分ではそう長くは持たんだろう。誰かが救援に向かわねば助からんな。 ―――ああ、ちなみに今彼らに最も近い位置にいるのは我々なわけだが…」 「…テメェの方こそ、持って回ったようなその口調は相変わらずだよ」 淡々と語る白魔術士に唸るような声音で返す。だが同時に心の中ではすでに理解してもいた。―――小賢しい掛け合いはもう必要ない…。 こちらにとって必要不可欠なカードはすでに相手に見せられてしまった。本当に何一つ信用できない男の言葉ではあるがそれでも無視するわけにもいかないカード。 …手を選ばなければならない。裏を斯くにしろ強引に突破するにしろ、どちらにしろ相手の要求を蹴って進もうとするのなら恐らくこの男との戦闘は避けられまい。 (つってもこのミスター幽霊相手に喧嘩なんかしてたらそれこそ日が暮れちまう…。いや、それ以前に―――) そう、それ以前にさっきとは状況が一変してしまっている。今の状況では、足枷無しの真の意味での一対一でなければダミアン・ルーウは倒せない。 最短で二人の下へ駆けつけたいのなら――― 「-―――、一つ約束してもらうぞ」 怒気を抑えながら呟く。相手の意図通りに動かされている事を自覚しながらもそれに乗るしかない状況に思わず嘆息しかけるがグッと堪える。 しゃくではあるが仕方がない。 「俺が全てを話し終えたら黙ってここを通せ。例えどんな結果でもだ。これが呑めないってんなら俺も好き勝手にさせてもらうぜ…」 右腕を掲げ、正面から相手の目を見据えて言い放つ。同時に頭の中に自壊連鎖の構成を描いておく。 もし邪魔をするのならこの部屋を丸ごと消滅させてでも二人の所へ向かわせてもらうという意思表示を込めて。 「―――誓おう」 当然気付いたのだろう。こちらの構成を見て取ったダミアンが神妙な面持ちで小さく頷く。 「…………」 先ほど平然と嘘をついた男との口約束。とても信じる気にはなれない保障。だが。 (今はそれにすがるしかない、か…) 小さくため息を吐くとオーフェンは事の顛末を掻い摘んで説明し始めた。 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 「もう止めておけ…。お前達では私をかわしてこの先へ進む事など到底不可能だ」 氷のような声が辺りに響く。 ダミアンとオーフェンが対峙しているすぐ前の車両、目標まで後一歩という所でスバルとティアナは突然現れた一人の少女にその道を阻まれていた。 「……ハァ………ハァ……」 地に膝を附き、息を乱しながらティアナは目の前で自分を見下ろす少女を睨みつける。 (こ、この…子供のくせに…) 声には出さずに毒づく。ティアナのその少女への第一印象は一言で言えば「何かアンバランスな子」といった物だった。 矮躯の少女だ。幼さが残る整った顔立ち、ウェーブのかかった柔らかそうな美しい銀の長髪。 ともすればどこかのご令嬢のような容姿のクセに着ているものは全身を覆うボディスーツに飾り気も何もない無骨なコート。 両の手指の間には―――投擲用なのだろう―――小振りのナイフが計八本握られている。トドメに左の目にはその瞳を覆う黒い眼帯。ハッキリ言って不似合いな事この上ない…。 しかしそんな少女にもうかれこれ五分間以上翻弄され続けている。いくら慣れていない新装備での初戦闘だからといって…。 (―――って、理由にならないわよね。最新の技術注ぎ込ませといて…) 胸中で反省する。スバルのマッハキャリバーも自分のクロスミラージュもそれぞれ自分達の特性を考え、自分達の為だけに組まれたデバイスなのだ。 得物を使いこなせないから勝てません、なんてのはただの言い訳にすぎないし口が裂けても言えない。第一にプライドが許さない…。 そこではたと気付く。 (はぁ、てことはあれ?あのおチビちゃんの方が純粋に私たちより上手って事?) 倒すどころか強引に押し通ることもままならないほどに?―――二人がかりで…? (冗っ談じゃないわよ…!こんな変な格好した子にコケにされてたまるかっての!) 心の中で毒づきながら乱れた呼吸をようやく整え立ち上がる。視線をチラリと後ろへ向けるとスバルも腰を上げ始めている。(先ほど少女に思い切り投げ飛ばされたのだ) 『スバル、動ける?』 「え?う、うん、なんとか…』 そちらの方に視線をやらずに念話で話しかけると怪訝に思いながらも同じく念話で返してくる。 『オッケー。スバル、「アレ」やるわよ』 『アレ…って、こないだから試してるコンビネーションの事?まだガジェット相手にしか成功してないよ?』 …自分で言っておいてなんだけど「アレ」だけで意思の疎通が出来てる辺りさすがは長い付き合いなだけはある気がする。 『ティア…?』 『え?あ、ああゴメン。任せなさい、タイミングはこっちで図るから。細かい事気にしないでアンタは決めるとこきっちり決めてよね』 『ティア…。うん、分かった!』 そう言うと打った背中を押さえながらスバルがヨロヨロと立ち上がる。 「ハァ…まだやる気か?」 「ったり前よ!」 呆れたというような表情でため息を吐く銀の少女に鼻息荒く言い返す。 「先ほども言ったがこちらはすでにレリックの捕獲を諦めている。私達の…協力者の用件が済めば私もすぐにここを立ち去る。 ここで少しの間おとなしくしていればそちらは痛い目を見ずに済む。レリックも手に入る。お前たちにとって都合の良い展開のはずなのだがな…。何が不満なんだ?」 「悪い人の言いなりになる事!!」 心底分からない、そう言いたげに首を傾げる少女にスバルがキッパリと言い返す。 そのあまりにも単純明快な断言にここまでずっと表情を崩さなかった少女の顔が不意打ちを食らったようにキョトン、としたモノになる。 その予想外に可愛らしい反応にわずかに苦笑を洩らしながらティアナが続く。 「…まぁ、そうゆう事。あと、そうね…極々個人的な理由ではあるんだけど」 そう呟きながらもゆっくりと腰を落としていく。―――これから仕掛けるのは「ある人」の戦法を自分流にアレンジしたとっておきだ。 (未完成だけどね…) 「…何だ?」 こちらの動きを見て取った少女が警戒心を高めたのか若干固い声音で問うてくる。 「あえて言うならこっちの―――」 刺すようなプレッシャーに皮肉気な笑みを浮かべながらクロスミラージュを握り直すとありったけの気合を込めて言い放つ。 「プライドの問題!!」 同時にバックステップで後ろに大きく飛び退きながら標的に向けてクロスミラージュを乱射する。それぞれ頭、腹、右足、大きく右に弧を描いて側頭部を狙う計四発の弾丸。 上下に散らされた魔力弾が少女に迫る。 「ふん…」 だが少女はつまらなそうに鼻を鳴らすと両腕を鞭のようにしならせ、迫る弾丸と同じ数のナイフをそれぞれの方向に向けてまったく同時に投擲した。 ボボボボン!と、連続した破裂音を残して放たれたナイフは狙い違わず全ての魔力弾を打ち落とす。 (狙いは正確ではあるがワンパターンだな…。策があるのか、それともただ単に芸がないだけか…) 弾丸を迎撃している間に一気に距離を離したティアナを見据えながら銀の少女――― チンクが胸中で呟く。瞬間、 「一撃―――」 「何!?」 突然想像もしない方向―――自分の真上から聞こえた声に珍しく驚愕の色を見せながらチンクが上方を仰ぐ。 (タイプゼロ――!?) そこにはいつの間に接近を許したのかもう一人の青髪の魔導師がこちらに向けて拳を構える姿があった。しかも驚く事にその姿は一人ではない。 約三人―――全く同じ姿形をした三人の少女が全く同じ闘志を込めた瞳をこちらへ向けている。 (なるほど…。さっきの弾幕は私の注意をタイプゼロから逸らす為の囮…兼、奴が私に近づくのを悟らせない為の目晦ましといった所か…。しかもその上、これは…幻術か?) 本物を見極めようと視線を巡らしながら高速で思考を展開させる。永遠に感じられる様な一瞬の中でドクターから聞いた情報を思い返す。 (奴のISではないな。性格や戦闘スタイルを鑑みてもこんな魔法を奴が習得しているとは考え辛い) ということは――― ハッと、今はもう離れた所に佇んでいるもう一人のオレンジの髪の少女へと視線を向ける。 (―――やってくれる) 瞬間的に背中を駆け抜ける戦慄に思わず頬に苦笑いが浮かぶ。予想通りと言うべきか、その足元には彼女の髪と同色の魔方陣が展開されていた。 「必ィッ倒オオオオオオーーーーー!!!」 間近に聞こえた雄叫びに再び視線を戻すとタイプゼロの目の前にサッカーボール程の小さなエネルギー球が生み出されている。 砲撃魔法―――そう悟り飛び退こうとして、本能的に思い留まる。自分の背後には貨物車両を覆う結界がある。あの結界は通信など情報の遮断には優れているが物理的な衝撃にはそれほど強くないのだ。 相手との位置関係を考えると避けるわけにもいかない。かといって砲手を迎撃しようにも幻術により本物と偽者の判別がつかない。 「チィ…」 舌打ちをしつつ拳を握り、指の間に挟んでスティンガーの残数を感触で確かめる。 (あと四本か。補充しているヒマはないな…) 三人に一本ずつ投擲して真偽を判別した後、姿を晒した本物にトドメの一投。自分の腕ならこのタイミングでも十分間に合う。だがそれも恐らく適わないだろう。 (私が動けば恐らく同時に奴も動く…) もはやこの目で確かめるような暇も余裕もないが気配で分かる。自分の視界の外ではあのもう一人の狙撃魔導師が「その時」を狙っている…。 (最後まできっちり詰めてくるか…。大したモノだよ、まったく。ああ―――本当に、惜しかった!) 「ッ!?」 生み出した光球を放つため拳を突き出そうとした瞬間、ゾクリ、とスバルの背筋に悪寒が走る。 明確な理由はない、だが肌で感じた。姿のない脅威に本能がこのまま技を繰り出す事を全力で拒んでいる。 (――――でも!!) グッと歯を食いしばり射線上にいる相手を睨みつける。 ここまで二人がかりで戦っても拳を当てることすら適わなかったあの少女を後一歩、もう一押しで倒せるという所まで来ているんだ。 どうしてここで退く事が出来る。 (構わない!ブチ抜け―――!) 悪寒を振り払うように魔力球に己が拳を叩きつけ、叫ぶ。 「ディバイン、バスターーーー!!!」 蒼の光が膨れ上がり拳の先から光の奔流が放たれる、その直前――――― 『IS・ランブルデトネイター』 ―――――声が聞こえた気がした。 瞬間、視界が閃光で埋め尽くされると共に凄まじい爆圧が背後から身体を貫いた。 「――――――ぁ」 攻撃を受けた。かろうじて認識できたのはそれだけ。後は殴られたのかも、撃たれたのかも、斬られたのかも分からない。 爆音を耳元で聞いたような気もするがそれも定かではない。それに反して遠くで自分の名前を叫ぶ相棒の声だけは何故かやけにはっきりと聞こえてきた。 身体に走る痛みと衝撃の余韻とが思考する力を奪っていく。 (あ…これ、ヤバイかも……) 指先一つ動かせずにスローモーションで流れていく景色をボンヤリと眺める。見ればもう床が目の前だった。 自分がどう飛んでいるのかさっぱり分からないので床なのか壁なのかは判断が付かないが、まぁどちらでも変わらないだろう。 どのみちこのまま受身も取らずに頭から叩きつけられたら大怪我じゃ済まない。 (どうしよう…。とにかく、意識だけは、失わないように、しないと―――) ウイングロードも今からでは間に合わない。スバルはそう悟るとすでに朧な意識で、固く目を瞑り歯を食いしばりながら覚悟を決めた。 (どうか死んじゃいませんように―――!!) 胸中で祈りながら衝撃に備える。 ――――待つ一瞬。 ――――――待ちわびる数瞬。 「………………………………………あれ?」 だがいつまで経っても衝突の時は来ない。怪訝に思いそ~、と目を開けてみる。と、霞む目の前には瞑る前に見たのと同じ光景が広がっていた。 床。床が自分の視界一面を覆っている。先ほどまでと違うのは激突寸前のその状態で宙に浮いているという事だが…。 (何?この状況…) ほぼ倒立のような体勢で宙吊りにされたまま辺りを見回す。と、少し離れた位置でこちらに駆け出そうとしている姿勢のままで停止しているティアナも、同じく離れた場所でティアナに向けてナイフを放とうとしている少女も、 二人とも同じく呆気にとられた視線をこちらに寄越していた。 「え~、と…」 釣られて自分の身体を見回してみると胴体と両の足首に銀色のバインドが体を繋ぎ止めるように巻きついていた。 「これって…」 唖然としたように呟く。―――刹那。 「フゥ…。間一髪、間に合いましたね…」 涼風が吹いた。 いや、涼しく感じたのは声だった。慌てて振り返るとティアナがいる更に奥、車両の最後尾にいつの間にか小さな人影が浮いていた。 「リィン曹長!?」 銀色の妖精、そんな呼び名がぴったりと当てはまる少女はこちらに軽くウィンクをして見せるとすぐにキッと表情を引き締める。 「スバル!すぐそこから離れるです!ティアナは援護を!」 「へ!?って、うわぁ!」 声と同時にリィンが腕を振ると体を拘束していたバインドが解ける。反射的に手を衝き、そのまま前転の要領で一回転してから立ち上がる。と、同時に膝ががくりと落ちる。やはりダメージはそれなりに深いらしい。 すると真正面から両手にナイフを構えた眼帯の少女が走りこんできていた。こちらに向かって一直線に。 「くっ…!」 応戦するしかない。そう覚悟を決め、力の入らない拳を構える。 「させません!」 「ッ…チィッ!!」 が、その拳が揮われる事はなかった。リィンの声、というよりも進行方向に突如発生した魔方陣を警戒した少女が直進から一転、残像が残りそうな俊敏さで後方に飛び退く。 その一瞬後、パキィィィ…ンと、グラスを突き合わせるような音を立てて魔方陣から人一人をすっぽり収納できるほどの氷柱が形成される。 「スバル!今の内に!」 「う、うん…。マッハキャリバー!」 下がった少女に向けて更に弾幕を張りながら叫んでくるティアナに頷き、足に活を入れて立ち上がるとウィングロードでティアナのいるあたりまで一気に離脱する。 「ありがと、ティア!あ、それとゴメン…。ヘマしちゃった…」 「はぁ?」 彼女の隣に並び立ちながらクロスミラージュから速射砲のように放たれ続ける魔力弾を器用に、そして俊敏に避ける銀の少女に視線を向ける。 「いや、さっきのコンビネーションの話。上手く決められなくて…」 するとティアナは何かおかしな話でも聞いたというように眉を顰め、 「アンタが謝るような事じゃないでしょ!あれは未完成のコンビネーションを実戦で使って通用するなんて考えたアタシのミス! …やっぱ形だけ真似しても駄目って事よね―――っていうかムカつくわね!一発くらい当たれってのよ!!」 「真似?」 イライラとがなりながらティアナが少女に向けてヤケクソ気味に叫ぶ。結局20発近く放たれた弾丸は一発足りとも少女には被弾しなかったらしい。 「二人とも、反省会は任務が終わった後ですよ?」 と、いつのまにか近寄って来ていたリィンがジト~、とした目で呟く。 「あ、リィン曹長…」 「ス、スイマセンでした!」 「まったく、もう…」 そう縮こまる二人に嘆息すると再び少女へと向き直る。 「…詰め損なったな。さっきのは氷結魔法…か?」 こちらはこちらで仕留め切れなかった事が悔しいのか苦々しい口調でチンクが呟く。 「あなたがこの襲撃の実行犯ですか?」 質問に答えずに逆に厳しい口調で問いたてるがチンクも特に動じる事もなく淡々と返す。 「その一味、と言った方が正確だな。それがどうした?」 「局で詳しい話を聞かせてもらいますです」 そう言うとリィンは足元に魔方陣を展開させ、威嚇するように右手をチンクの方へと向ける。それに習うように隣の二人もそれぞれの得物を構える。 (3対1、さすがに不利か…。それに時間も経ちすぎた。そろそろ隊長格も追いついて来る頃だろう。――――潮時だな) コートの裏からスティンガーを補充しながらチンクは早々に撤退する事を決意した。 足止めという役割も協力者としての義理も十分に果たしたはずだ。これ以上の事をしてやるような義務も責務も自分達にはない。あとはダミアン氏に任せればいい。 目の前の敵と対峙しながらチンクは密かに念話の回線を開く。反対側の車両で自分と同じく今も戦っているはずの妹に向けて――― ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 「らああああああ!!」 雄叫びを上げ、複雑な蛇行を描きながらノーヴェが飛び込んでくる。 「はぁあ!」 それを真っ向から迎え撃つ形でエリオは愛槍を振るう。カウンター。左への薙ぎ払い。必当のタイミングで放ったはずの一撃はしかし少女の体を薙ぐ事はない。 「遅ぇんだよ!!」 嘲りの声と共にノーヴェが右足を振り上げ、足首のスピナーで斬撃を受け止める。更に体を捻りもう片方の足でソバット気味の回し蹴りをこちらの顔面めがけて打ち込んでくる。 突進の勢いと常人離れした体のバネに加えて鋼鉄のブーツにより凶悪な速度と威力を保った蹴り。直撃すれば人間の頭なんて簡単に砕けるだろう。 「ふっ!」 咄嗟に槍を引き、柄の部分で蹴りを受けた。金属同士がぶつかり合う音と共に凄まじい圧力と衝撃が両腕にのしかかってくる。 (お…重すぎる…!) 蹴りの威力に押され、後方―――壁際まで一気に吹き飛ばされる。 「くぅっ!」 苦悶の声を上げながらもなんとか着地し、壁へと叩きつけられる事を防ぐ。 (駄目だ…。やっぱりあの人の蹴りは僕じゃ防げない。受けちゃ駄目なんだ。なんとか受け流すか、かわさなきゃ…) 息を乱し、衝撃に痺れる両手に顔を歪めながらエリオはこの数分の間で何度目かになる言葉を胸中で繰り返す。受けるな、流せ、もしくはかわせ。 だがそれを実際に行えていない事は彼の満身創痍の体を見れば一目瞭然だ。直撃こそなんとか避けているがもう何度も何度も蹴り飛ばされ続けている。 全身の打ち身は覚悟しなければならないかもしれない。 「エリオ君…!待ってて、今―――」 離れた所からキャロがわずかに上ずった、心配そうな声を上げながらその足元に桃色の魔方陣を展開する。 「―――ッ、キャロ、駄目だ!」 「え!?」 だがエリオはそれを遮るように大声を上げると、無言でこちらを見返している赤髪の少女へと槍を構える。 「で、でも…さっきかけた魔法ももう効果が解けちゃってるし…このままじゃ…」 「大丈夫、だから。キャロはそこにいて…」 狼狽するキャロを尻目に断固とした口調で魔法による加護を拒む。理由はある。 キャロが魔方陣を展開させた時、目前の女のブーツの先がキャロの方へとわずかに向いたのだ。 (キャロの方へ注意を向けさせるわけにはいかない。彼女の障壁じゃ多分この人の攻撃は止められない…。僕がやらなきゃ―――!) 決意を込めた瞳と共に少女に向けて踏み込もうとした瞬間、遠くで何かが轟くような音が聞こえた。 (爆発?ティアナさん達の方だ…) 思わず足を止め、音源を探る。と、ノーヴェの方もその音に気づいたのかその金色に光る瞳を車両を隔てている扉の方へと向ける。 「おー、チンク姉張り切ってんなぁ」 列車の向こう側から轟いた爆音に耳を澄ませ赤髪の少女がなんとはなしに呟き、扉の方へと向けていたその視線を再びこちらへと巡らせる。 「んじゃ、こっちもそろそろ終わらせるか。てめぇも転がされてばっかでいい加減飽きただろ?」 言いながらノーヴェはその場でエリオに向けて差し出すようにその右腕を掲げる。 「ッストラーダ!」 『SONIC MOVE!』 危機を感じ、ほぼ反射的にブリッツアクションを展開、疾風を纏いながら横へと跳ぶ。その一瞬後、少女が右腕に装着している篭手から無数の光の矢が放射される。 (射撃武装…!?) ソニックムーブの効果が切れると共に体に重力が戻ってくる。驚愕しながら少女の方へ視線を向けるとすでにノーヴェはこちらに向けて右腕を掲げていた。 (くっ、もう一度―――) 更にソニックムーブを展開させようとして、ハッと気付く。位置が悪い。 (キャロが―――!) 横に跳んだのが悪かった。このまま回避したら自分の背後にいるキャロがそのまま標的にされる。 退路が無い。攻撃しようにもあの武器がある以上まっすぐ突っ込めば間違いなく蜂の巣にされる。攻手も防手も選べない状況に全身の血が急速に冷えていくのが分かる。 どうすれば――― 「エリオ君、下がって!!」 呆然となりかけていた頭に突然、叱咤の声が響く。 『SONIC MOVE!』 その声に従い、半ば無意識に発動しかけていた魔法で後方へと一気に跳躍する。高速で流れていく景色。遠ざかっていく赤髪の少女。そして逆に急速に近づいてくる気配。 「キャロ、何で!?」 「いいから!」 ちょうどキャロのすぐ横でソニックムーブの効果が途切れる。すると彼女は有無を言わさず自分を庇うように一歩前に出ると両腕を突き出し、彼女の魔力光と同色の障壁を展開する。 そしてそれとほぼ同時に光の雨が火花を散らしながら桃色の障壁を叩いていく。 「う……うぅ……」 間断なく炸裂していくエネルギー弾。障壁越しに伝わるその衝撃にキャロが顔を顰める。 「キャロ!」 「だ、大丈夫…エリオ君にばっかり、辛い思いさせられないから…」 突破されそうになる障壁を必死に維持しながら呻くような声でキャロが呟く。 「チィッ、しゃらくせぇ!!」 突破できない事にしびれを切らしたのかノーヴェが罵声を上げながら突っ込んでくる。鋼の車輪に悲鳴を上げさせ、一直線に――― 「キャロ、危―――」 「フリード、今!ブラスト・レイ!!」 エリオの警声よりもなお早くキャロが彼女の下僕、彼女の足元にいる子ドラゴンに命令を下す。 「キュ、クルァアーーー!!」 主の指示を受け、フリードがその口腔から灼熱の火球を吐き出す。障壁の内側から放たれたその火球はノーヴェのガンシューターによって磨り減っていた障壁を容易く砕き、正面から突進してくるノーヴェを捉える。 「っ、まだまだぁ!」 予想外の反撃に一瞬表情を強張らせたノーヴェだったがその驚愕もすぐに不敵な笑みへと変わる。 彼女は足元から光の帯が、スバルのウィングロードに酷似した「道」が伸びる。金色に光るその道は火球から逃れるように、壁に沿うようにルートを形成すると、その上をノーヴェは自身のトップスピードで駆け抜ける。 火球をギリギリで回避したノーヴェはそのままエリオ達の背後に回ると光の帯―――『エアライナー』の上で勝ち誇るように胸を反らす。 「ふぅ……。へっ、詰めが甘いんだよ!」 「くっ…」 そちらに向き直りながらエリオが口の端から気を吐く。今の攻撃も普通なら確実に当たっているタイミングのはずだ。 (なんて反射神経だ。スバルさん並みかもしれない…) ともあれ、あれが避けられてしまうのならもうどうしていいのか分からな――― 「あああああーーーーーーーー!!!」 と、マイナス方面に向かいそうになった思考を遮るように突然ノーヴェが大声を上げる。のと同時、背後―――フリードのブラスト・レイが放たれた方向―――から爆音が鳴り響く。 「え、何!?」 思わず振り返る。見れば貨物車両の扉を被っていた結界が真っ赤な炎に包まれていた。ノーヴェはそのメラメラと燃え盛る炎を指差しながら大きく口を開けたまま硬直している。 「…ひょっとして、さっきのフリードので?」 「ね、狙ったわけじゃないんだけど…」 隣で同じようにポカーンとしているキャロへと話を振ると苦笑混じりに返してくる。 炎が晴れると結界は綺麗さっぱり無くなっていた。 「……………」 「……………」 二人して硬直を続ける少女へと視線を戻す。一応こちらにとって良い方向に事は転がったのだが、どうにも気まずい…。 「え、え~と…その、」 「が、頑張って下さい?」 何故か励ましてみたりする。すると話しかけられた事で我に返ったのか彼女はスッと居住まいを正すと一つ嘆息する。 「まぁ、しょうがねえよな…」 気持ち良く開き直りました。 「い、いいんですか!?」 予想外の反応だったのかキャロが勢いよく突っ込む。 「い~んだよ。よく考えたらドクターからも『なるべく』時間稼げとしか言われなかったしな。それにあんなジジイがどうなろうがアタシの知ったこっちゃねーし」 なにやらすっかり冷めてしまったように頭をポリポリと掻きながらメンドくさそうに少女が言う。 (あ、しまった…。さっき空気に負けずに攻撃してればひょっとして勝てたんじゃあ…。って、うう…こ、こんな事考える自分が嫌だ…。誰の影響だろう…) エリオはエリオで頭を横切った外道な思考に軽く自己嫌悪に陥っていたりする。 「と、とにかく」 仕切り直すように咳払いを一つ。弛緩しかけた空気を締めるようにエリオが口調を厳しいモノへと変えて彼女―――ノーヴェへと話しかける。 「まだ戦いますか?撤退してくれるのなら僕たちも追いません。僕たちの目的はアナタではありませんから。でも―――」 戦うというのなら相手になる。言葉ではなく手の中の得物を構える事でその意思を相手へと伝える。 急な空気の変化に戸惑っていたキャロもわずかに目を伏せた後、キッと強い視線を少女へと向ける。 「―――転がされっぱなしだったクセに偉そうに吠えるじゃねーか。…生意気なガキは嫌いなんだよ」 それを受けて少女が再び険呑な雰囲気を纏わせる。 「―――チッ、まぁどのみち時間切れか」 「え?」 が、それも一瞬の事。アッサリと殺気を霧散させ、例の光の帯を足元から伸ばしエリオ達の頭の上を通り過ぎると、結界の消えた扉の前に降り立つ。 「あ!? あー、はいはいわかってるよ。おとなしく帰るっつってんだろ? ―――ったく、最近口うるさすぎるぜ、チンク姉…」 ブツブツと虚空に向けて愚痴をこぼしながら何かを拾い上げる。 (あれは―――結界装置の破片?) 「可能なら持ち帰れってドクターに言われてるんでな」 エリオの視線を察したのか手の中で破片を弄びながらノーヴェが答える。それと共に天井の穴に向けて再び光の帯が伸びる。 「んじゃ、後は好きにしろよ」 「ま、待って下さい!」 そのまま外へ離脱しようとしたノーヴェに向けて声をかける。 「一つだけ教えてくれませんか?その、ドクターっていうのは…」 「――――――」 恐る恐るエリオが尋ねる。するとノーヴェは不敵に笑い、 「敵には言えねーよ。知りたきゃ自分で調べるんだな」 「そう…ですか…。そうですよね…」 予想していたとはいえ、にべも無い答えに肩を落とす。するとその反応に何か感じるモノがあったのかノーヴェが表情を不機嫌そうに歪める。 「おい、何か勘違いしてるみたいだから言っとくがな。ちっと馴れ合ったくらいで仲良くなったなんて思うんじゃねーぞ…。 アタシに少しでもその気が残ってたらテメェら二人ブッ殺すのくらいなんでもねぇんだぜ?」 「それは……」 「……………」 淡々とぶつけられる敵意を無言で噛み締める。 「フン…」 俯くエリオ達を一瞥してからノーヴェはローラーブーツに鞭を入れ今度こそ列車から離脱、 「我は放つ光の白刃!!」 する前に背後の扉から溢れ出した光の奔流に飲み込まれていった。 「うわぁああああああ!!」 「きゃあああああああ!!」 部屋の中央を蹂躙しながらすぐ真横を通過していく純白の熱波を身を低くしてやり過ごす。扉の向こうから声が聞こえてからすぐキャロを抱き抱えて壁際まで跳んだのが幸いした。 我は、の時点で反射的に回避行動に移れたのは間違いなく日頃の訓練の賜物だろう。もはやすり込みレベルだ。なんだか泣きたくなってきた。 (いや、まぁ泣いたってしょうがないんだけども…) そんなワケの分からない葛藤から立ち直る頃には光の奔流は途切れ、室内は静寂を取り戻していた。 こちらに駆け寄ってくる殺人犯(未遂)にどんよりとした視線を向ける。キャロの方はまだショックが抜けきっていないのか目をパチクリさせていた。 「キャロ、エリオ!無事か!?―――って、何だ。全然平気そうじゃねえか」 「いえ、殺される所でした…」 「仕方ねえだろ。ドアが開かなかったんだよ」 こちらの皮肉に嘆息で返しながらオーフェンさんが手に持っていた「何か」をボクの方に放る。 「お、っと、何ですか?コレ」 「レリックだってよ」 「回収対象を粗末に扱わないで下さい!!」 受け取った小さなケースを抱き締めながら思わず叫ぶ。 「あーはいはい。…つーかお前ら本当になんともねぇのか?何か勝手に怪我が増えてるみたいだけど…」 「勝手にって…。増えるワケないじゃないですか。これは―――」 と、そこでようやく気を緩めすぎていた事に気付いた。後ろを、熱衝撃破が駆け抜けていった方を振り向く。 「うわぁ……」 絶句した。いや、ある意味当たり前の結果ではあるんだけど…。 「…列車、壊しちゃいましたね」 ぽっかりと、魔術の直撃によって列車後方に開いた大穴を眺めながら呟く。後方の列車は完全に分断されてしまったのか影も形も見えなかった。 「―――まあ、危機的状況打破のための必要犠牲って所だな」 惨々たる光景から目を背けながら実行犯がやけに遠回しな言葉で言い訳だかなんだか分からない事を口にする。 そんなオーフェンさんに半眼を向けながらも胸中では別の理由で嘆息する。 (ノーヴェさん…) これではまず生きていないだろう。自分達を殺そうとしていた人の事ではあるが、陰鬱な気持ちになるのはどうしようもない。 「…エリオ」 「あ、はい」 思考の最中に唐突に名前を呼ばれ振り向く。と、オーフェンさんはその視線を上に向けていた。そのまま続けてくる。 「お前の知り合いか?あの怖い姉ちゃん」 「へ?」 質問の意味が分からずオーフェンさんの視線を辿るとそこには最初にオーフェンさんが天井に開けた大穴が、そして――― 「ノ、ノーヴェさん!?」 その淵からこちらを見下ろしている赤髪の少女がいた。 「…テメェか?さっきアタシの後ろからいきなりブッ放しやがったのは…」 こちらの呼びかけに答えもせず、ノーヴェさんは震え声でオーフェンさんへと問いかける。よく見ればノーヴェさんの着ている服にはやや焦げ後が、頬の辺りには火傷の後がうっすらと残っていた。 「なるほどな…。お前さんがダミアンの言ってた「友人からの支援」ってやつか。ヤロウの言ってた事もまるっきり嘘じゃなかったわけだ」 「ワケわかんねぇ事言ってねえで質問に答えろ…。さっきのはテメェがやったのかって聞いてんだよ」 はぐらかすようなオーフェンさんの言葉にノーヴェさんが更に噛み付く。怒りに燃えるその金色の瞳には先ほど垣間見えた理性の光は見られない。 「―――――だったら、どうする?」 「……………」 引き金を引く、もしくはスイッチが押されるような音を聴いた気がした。 「死ね―――」 その言葉を待っていたとばかりに口元に凄絶な笑みを張り付かせ、ノーヴェさんが開始の宣誓を告げる。 「待っ、ノーヴェさ―――」 「下がってろ!」 無意識に駆け寄ろうとした所をオーフェンさんに腕を捕まれ、そのまま思い切り壁まで投げられる。 「うおああああああーーーーー!!!」 それと同時にノーヴェさんが凄まじい雄叫びを上げながらすでに腰の鞘からフェンリルを抜いているオーフェンさんめがけて突進する。 鋼鉄の蹴りと鋼の刃が交錯する一瞬前、 「ったく、本当に…面倒事だけには事欠かねぇんだよな、俺の人生は」 ボソリと、そんな皮肉の混じった泣き言を聞いた気がした。 思えばこれがこちらの世界に来てからオーフェンにとってある意味初めての対人実戦、 そして―――これがノーヴェという少女との因縁の始まりであった。 魔術士オーフェンStrikers 第九話 終 戻る 目次へ 次へ
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ミッドチルダの大都市、魔法文明の中心地 クラナガン。 無数の高層ビルが立ち並び、キレイに舗装された道が広がり、ライフラインが完備された完成形とも言える街。 だがソコに人が住んでいる以上、どうしても「ソンナ場所」は存在する。キレイな大通りから一歩脇道に入ってみよう。 暗い通りがある。汚い建物があり、弱々しい明かりがある。非合法な店が軒先を並べている。 「ソンナ場所」 そのビルも裏路地に居を構えるだけあって、古く薄暗い印象を与える有象無象の一角。 だけどその一室だけはまた違った色を纏うことになる。まぁ、コレもこう言う場所では起こりやすい事態の一つなのだが…… 「ゴフッ……」 悲鳴と呼ぶには余りにも小さく、だが余りにも凄惨な音。ボコボコと溢れかえる水音。 だけど水の色は紅いアカい赤。溢れ出る先は人間の首元。横一文字に切り裂かれた傷。 崩れ落ちる男の背後から彼の喉元を引き裂いたのは銀に光る鋭い刃。シッカリとしたグリップとそれに似合う刃を備えたダガーナイフ。 ソレを持つ黒一色に包まれた人影は、崩れ落ちる男に何の感慨も抱かず、淡々と奥の部屋へと歩を進める。 「コンコン」 軽いノック音。これまた友人の家を訪ねるような自然なノック。数秒の沈黙の後、開かれた扉。 怪訝そうな表情の中年女性が顔を覗かせる。人影はその襟元を掴んで引きずり出すと同時にナイフを腹部へと一撃。 「□□□□□!!」 「っ!? どうした!!」 ナイフを回転させて引き抜くと悲鳴、それによって生まれた驚愕の声が室内から響く。 回転させて傷口を抉った結果として生まれる多量の返り血を浴びながら、殺戮者は室内へと飛び込んだ。 「キサマ!」 奥に見えた最後の標的、白いスーツの青年が突き出した手の先に魔力反応。魔道師、しかもその収束率からしてかなりの腕利き。 だが……遅い。人影、殺戮者、殺し屋には遅すぎた。距離も既に魔法の間合いではない。 ここはもう魔法に比べれば原始的な殺傷兵器、ナイフの間合いだ。 「グッ!?」 自然な動きで殺し屋の袖口から引き抜かれたもう一本のナイフ。二人の命を奪ったナイフよりも幾分細く、シンプルな作り。 切り裂く事ではなく、投擲用に重心が先端部にあり、「突き刺さる」事に重点を置いたスローティングナイフ。 飛翔した凶器は寸分違わず、魔道師の肩に突き刺さる。もちそんそれだけでは命を奪う事は出来ない。 だが魔法を成功させる集中を途切れさせるという意味では充分。残された手に握られたナイフが容易く最後の命を刈り取った。 「あぁ……ゲンヤさん? 終わりました。三人、皆殺しです」 辺りに死体が散乱するホテルの一室。そこで黒いロングコートを筆頭とした黒尽くめの殺戮者は携帯電話を取り出して、番号をプッシュ。 慇懃無礼に高級そうなソファーの上で姿勢を崩し、足をテーブルに乗せて組んだ姿勢で、繋がった先で黒尽くめの殺し屋は言う。 『相変わらずお前さんの仕事は速くて助かるぜ、ピノッキオ。何時も通り処理するから、先に出な』 答えたのは中年の男性の声。話の内容から察するにこのような出来事は日常的に行われる慣れた行為。 「解りました」 それだけ言うと殺し屋 ピノッキオは電話を切る。余計な会話は足をつく事に成りかねない。 仕事で使ったナイフと携帯電話を黒いコートの中へと納め、彼は呟いた。 「バリアジャケット解除」 『YES』 光がピノッキオの体を包み、一瞬で弾ければ彼の服装は何処にでもいる好青年のソレ。 気だるげな表情は青年期独特の無気力感を醸し出しており、手元に収まったのは小さなナイフにも似たペンダント。 それが彼の扱う魔法の道具であり、殺しのアイテム。『カヴァリエーレ』 ナイフ形という珍しいデバイスだった。 「けど……便利なもんだ、魔法って」 魔道師資質に乏しいといわれた某管理外世界ではピノッキオを驚かせる不思議な事など多くは無かった。 まぁ不思議な事など、自分と殺し合える小さな女の子くらいなもの。 勿論彼自身も魔法に才能があるわけではない。いま行ったバリアジャケットの生成と解除、僅かな運動能力の強化が限界だった。 だが……彼の強さは魔道師としての才能ではない。単純な身体能力と適切な行動予測、そして殺しの知識に裏づけされたもの。 「……ん?」 ジャケットの内ポケットを弄っていたピノッキオはソコにお目当ての品 タバコが無い事に顔をしかめる。 何時から吸うようになったか覚えてないが、仕事のあとに一服するのはそれなりに気分が良いものだ。 思い出したように己が命を奪った死体 白いスーツの魔道師の懐へと手を入れて、引き出したタバコを咥え、火をつける。 「変わった味だな……」 煙を吐き出しながら立ち上がり、軽い足取りで扉を二つ通って廊下へ。 ピノッキオの足取りは三人を殺して、その背後には死体が転がっている事など感じさせない自然なソレ。 裏に分類される場所とは言え、廊下で歩きながらの喫煙などしているからか? 「?」 「……」 途中で擦れ違った少女に訝しげな目を向けられたこと以外、ありきたりな日常のような平静。 二階分ほど階段を下りたころには、彼も意識するレベルでは無いが、仕事を終えた安心感を覚え始めても居た。 だが……ピノッキオと「女の子」の相性は基本的に最悪なのである。 「まて!!」 「なに?」 体全体で振り返る何時もの本能を押さえ、ピノッキオは首の動きだけで背後に居るだろう、叫びの主へと視線を向ける。 一般人としての対応により、不信を感じさせない策だったのだが……叫びの主の姿からすればソレは失敗だった。 オレンジ色の髪をツインテールにしてバリアジャケットに身を包んだ少女が銃型のデバイスを向けていたのだから。 「708号室……殺ったのはアナタね!?」 「はぁ?」 疑問を確かに表情に乗せ、ピノッキオはゆっくりと振り返る。 自然な動きで尚且つ隙が無く、気取られないようにジャケットの袖中へと指が滑り込む。 「何を言っているのか解らない」 だがそのナイフが閃くのは最後の手段だ。ピノッキオとて殺しが好きな訳ではない。 余計な殺しは足がつく危険が増す事にもなる。しかし少女が如何して確信を持って彼に対峙するのか? その理由は…… 「タバコ」 「ん?」 「そのタバコ、ヘンな味でしょ? ベルカ自治領でしか売ってない珍品なの。 708号室で殺されていた私の知り合いも……ソレを吸うのよ。確認したら持っていなかったわ」 そこまで聞いてピノッキオは最良の展開を切り捨てた。 「アナタが持っているタバコの箱を調べさせてもらおうかしら? 彼の指紋がバッチリ付着している箱をね?」 冷静な状況判断、慎重にして大胆な考察。それを効果的に発言し、相手の抵抗を押さえ込む手法。 実に優秀だ。だが……『殺しの腕』はどうだろうか? 「どうぞご勝手に。急いでるんだ、早くしてくれ」 ピノッキオは右の手で懐からタバコの箱を取り出し、自分にデバイスを向ける相手へ放り投げる。 相手の突然の動きに驚き、反射的に箱を受け取ろうと彼女の視線が僅かに揺れる。しかし動いたのは視線だけ。 余りにも小さなスキ、だがそれでピノッキオには充分だった。反対側になる左の袖下から器用にナイフを引き抜く。そして予備動作は無しで投擲。 「このっ!?」 少女は回避も防御も選ばない。受けるか、弾くかしての間髪置かない射撃を選択。 ナイフだと油断? 違う、これは管理世界の魔道師ならば正解の判断。 魔力反応無しで放たれた物体では、バリアジャケットを破る事などできないからだ。 ご禁制の質量兵器ならばまだしも、手一つで放つことができるナイフ程度。先ほど放り投げたタバコ程度の価値しかない。 「え?」 だがティアナは貫き、焼くような痛みを覚える事になる。 呆然と見下ろした視線の先、バリアジャケットを貫き、太腿に突き刺さるナイフの柄。 そこから滲み出した血を見るに至り、ようやく自分に起きた事態を把握する。 だが遅い。受けてしまい、傷を負ってしまった時点で取り返しのつかない「スキ」を作っているのだ。 「誰も同じ反応だな!」 その様子にピノッキオは冷静な判断として嘲りの叫びを上げた。 確かに魔法はスゴイし、ソレを操る魔道師は厄介な敵となりうる。だが……魔道師は自分達の力、魔法を過信している。 同時に魔法を使わない技術を甘く見ている。体術、戦闘の術として身のこなしを学習しても、ソコに魔力反応が無いだけで油断する。 ナイフを遠距離から『魔力無し』で投擲したところで致命傷にはならないと『思い込んで』いるのだ。 「シッ!」 予想外の負傷に少女の気が散る一瞬の間、ピノッキオが新たなナイフを構えて走る。 彼がもつナイフは全て対魔力鉱物を用いた合金製だが、その能力は簡易な障壁やバリアジャケットを無効化する程度。 つまり本気で障壁など防御に徹されれば攻撃する事は叶わないし、距離を本当の意味で離されれば攻撃自体は不可能になってしまう。 故にピノッキオは距離を詰める。魔法が持つ優位点を数多く無効化し、一撃で必殺できる場所まで歩を進める。 痛み集中力が乱れた少女の射撃魔法など当たらない。ピノッキオは見るのではなく、射線を感じて避ける。 『先生』に教わった動きを忠実に、そして自分なりにアレンジを加えた的確な軌道。 相手に射撃する機会をなるべく与えず、もっとも早くナイフだけの間合いに入る為の動き。 「ヒュン!」 動きの収束点でナイフが閃く。響くのは小さな風を切る音だけ。輝くのは一つ筋の白銀。 それだけだ。実に小さく、実に確実な……殺しの動き。狙う先には少女の細い首があった。 だが少女も唯の少女ではない。魔道師であり、あれだけの状況推測が可能な人物。 「ダガーモード!」 銃口から飛び出したオレンジ色の魔力光が刃を形成。ナイフを受け止めて、払おうとする。 だが力をかけると同時に抜ける手ごたえ。宙を舞うピノッキオのナイフに目を奪われそうになって少女は気がつく。 「囮!?」 ピノッキオの足が少女の足元を薙いだ。可愛らしい悲鳴を上げるまもなく、背を地へと打ちつける。 息が詰まるのにもかまわず立ち上がり、再びデバイスを銃として運用。ピノッキオに標準をあわせる。 だが……ピノッキオの金髪が視界の下へと沈む。身を伏せるように射線から逃れ、沈み込んだ視線から顎へ拳……ではなく掌底で一撃。 「ドン」 鈍い衝撃音。意識を刈り取られて少女は崩れ落ちた。 一度このように対処した少女を逃がさずに放置し、後に痛い目にあったことがあるピノッキオだ。 きっちり止めを刺そうとナイフを振り上げて…… 「良いんですか? 僕と直接、こんな場所で会うなんて」 「硬い事は言いっこ無しだぜ、ピノッキオ」 『高すぎる事も無く、極めて安いわけではない』 ビルの地下に居を構えるそのレストランの値段設定は大体そんな感じだ。 地球で言うところのイタリア料理風の料理はピノッキオの舌にあったが、対面している人物には不満があった。 ヨレヨレのスーツと同じく草臥れた中年男性……そんな事が問題ではなく、その中年男性の名と素性が問題だ。 「オメエさんには世話になってるからな。これくらいはな?」 屈託の無い笑みを浮かべながら、二つのグラスへとワインを注ぐ男性の名前はゲンヤ・ナカジマ。 管理局の局員であり、世に言うJS事件が起きるまでは平凡な部隊指揮官、三等陸佐に過ぎなかった人物だ。だが今は? 『表記するのが面倒なほど複雑な地位と立場』 ソレくらいがピノッキオの解る事であり、そんな状態だからこそ表には出せない厄介事や危険に常に隣り合わせ。 そしてこの世界に流れ着いた自分の面倒を見てくれた恩人でもある。 「恩は返すよ」 先生に教えられ、おじさんに実行してきた彼にとってのたった一つの行動理念、『恩返し』。 「……そう言えばあの女の子は始末しなくて良かったのかい?」 「ん? ティアナの嬢ちゃんのことか?」 運ばれてきた料理に手をつけながら、思い出したようにピノッキオは疑問を口にした。 あの仕事の後、要らない頭を利かせて追いかけてきた魔道師の少女。始末する直前でゲンヤからの連絡が来たのだ。 「本局なんだろ? 彼女も」 「彼女はスバルの親友でな? 知らない事とは言え、見殺しにしたら目覚めが悪いだろ?」 「プロならば優先順位を考えるべきだ」 人の首を掻き切るよりも手馴れない動きで、ステーキをカットしているピノッキオはタメ息を一つ。 「それにイザと言う時の為に海とのパイプも確保しておいたほうが良いからよ」 「……そっちが本音でしょ?」 現在の陸と海の関係、管理局の混乱っぷりを見ればそんな思考が浮かんでくるのもわかる。 JS事件により余りにも多くの問題点が噴出し、陸と海の関係は今までに増して険悪。 地上本部は『まともな戦力を寄越さないからこんな事になる!』と言い、 本局は『お前らが言う事を聞かないからこんな事になる!』と反論した。 だが犯罪者との取引の容疑で逮捕されたオーリス・ゲイズの裁判が進むに連れて、地上本部の余りにも苦しい状況が浮き彫りになった。 するとその僅かな戦力で地上を守り抜いてきた故 レジアス・ゲイズへの支持の声と本局への不満が噴出。 本局が主導する事後処理に不満を持っていたレジアス派と呼ばれる中堅職員が、地上本部を大量に退職して業務に滞りが出る始末。 その打開策として本局が提示してきた新たな地上本部中枢の人事案、そのトップに置かれていたのがゲンヤ・ナカジマだった。 海に理解と親交があり、同時に経歴としては根っからの陸でもあり、ある程度有能。 正に本局が求める最高の人材と言っても良い。だが如何してそんなゲンヤが本局と影ながらとは言え対立する事を望んだのか? 「せっかく新しい娘たちも含めた家族と余生を楽しもうと思ってたのによ」 この大抜擢が無ければゲンヤは長女であるギンガ・ナカジマとJS事件の遺児、戦闘機人の保護観察の任に付くはずだった。 実はゲンヤが選ばれた大きな理由として『戦闘機人という特殊な娘の境遇を利用して縛る事が可能だから』と言うものも含まれる。 「まぁ、これでギンガ達の体の事を陸で行えるようになれば御の字だ。 レジアス派もナンバーズの嬢ちゃん達が運用可能になれば汚名が晴れる事になるし、嬢ちゃん達も狭い檻から出してやれる」 だが彼とてそのまま飼い殺されるつもりは無い。 根っからの陸であり、妻が本局とのつまらない確執や戦力差の犠牲になった身としては、このまま陸を海の下におく気など無かった。 薦められる陸の改革は海との関係を対等にしていくものだと気がついた本局は焦った。 しかし表向きには『陸と海の体質・関係の改善』を掲げて任命したゲンヤを解任する事は出来ない。 故に……暗躍する。ゲンヤや地上本部の荒を探し、優秀な人材の引抜を裏では加速させ、ときに犯罪組織とすら手を組む。 暗躍してきた魔手を潰し、地上での本局の勢力を秘密裏に削いでいく。それがピノッキオに与えられた恩返しの方法だった。 「そうそう! ギンガを覚えてるか?」 「? ゲンヤさんの娘ですよね?……上の」 「おう、そのギンガだがな? お前に気があるんじゃねえか?と思ってよ」 「まさか……数回しか有った事無いのに」 メインディッシュをたべ終わり、もっぱらワインを飲む時間へと移行したテーブル。 ゲンヤのそんな言葉にも、タバコを吸いつつグラスを傾けていたピノッキオは、ヒドク詰まらなそうに返した。 「いや! お前の事は民間の情報・捜査協力者って紹介したんだがよ? あれからけっこう『ピーノ君、元気?』とか『今度は何時来るの?』とか聞いて来るんだ。 ギンガは同年齢だと仕事仲間に見えるのか、職場じゃ彼氏ができね。お前さんみたいに、どっか抜けている奴が母性的に気になるんじゃね~かと……」 「言っただろ? 女の子は苦手なんだ」 「ソイツは人生の半分は損してるぜ、ピノッキオ」 「忠告ありがとう。でも実体験だからさ」 最初の殺しの時、撃ち殺した少女の血飛沫と表情を今でも覚えている。 モンタルチーノに潜伏していた時も、お節介を焼いてくれた少女に正体がバレて、殺そうとした。 そして……そのモンタルチーノでやりあい、殺せなかった少女の暗殺者。後に自分を殺したあの褐色の少女。 「女の子には良い思い出が無いんだ」 「じゃあこれから作れば良いさ!」 確実に酔っていると言えなくも無い言動を繰り返すゲンヤにピノッキオはタメ息を一つ。 不意にゲンヤが楽しそうに注いでいたワイングラスに映りこむ人影にふと視線を写す。 ワイングラスに映る場所、つまりピノッキオの後ろから近づいてくる……少女。 ウェイトレスの格好をしているが左手に持ったお盆は、右手を『隠すように』組まれていて…… 「ゲンヤさん伏せて!!」 「「っ!?」」 ピノッキオの反射と言っても良い叫びに、二つの方向が即座に反応した。 一つはもちろん呼びかけられたゲンヤ。すぐさまテーブルの下に転がり込む。 そしてもう一つ……ウェイトレスの少女がトレーの下に隠していたのは……拳銃。 拳銃型のデバイスではない。火薬の反動により金属の弾頭を飛ばす質量兵器だ。 「このっ!」 立ち上がりざま、ピノッキオは盛大に真白なテーブルクロスを引っ張る。 上に乗っていた食器やワイングラスを広範囲にぶちまけながら、テーブルクロスが空間を埋め尽くす。 これは目晦まし。そのスキにナイフを引き抜き布と布の僅かな隙間、そこから一瞬見えた金属の光沢へと投擲。 「キン!」 「ちっ!?」 銃を取り落としたらしい相手の顔、ようやくテーブルクロスが空中で暴れるのを止めた時、確かに見えた。 どちらも緊張を孕んだまま、視線だけが交差して……驚きの色に染まる。 「モンタルチーノの女の子……?」 ウェイトレスの服装に身を包んでいるが、間違いなかった。その女の子をピノッキオが見間違えるはずが無い。 褐色の肌に青い瞳、くすんだ金髪を長いツインテールにしている。それだけならば世界にはたくさん居るだろう。 だがその視線と身のこなし。小さな女の子の体は戦士としての理想形をなぞり、視線にははっきりとして冷静な闘争の色。 「ピノッキオ!? なんで……」 「君は本当に何時でも邪魔をする……やはりあの時殺しておくべきだった」 少女の方も相対する存在が何者であるのかを理解し、同時にどうしてこの場所に居るのか?と言う疑問を漂わせる。 だがそんな理解を得る作業をここで行うことは出来ない。今ここは確かに戦場、修羅の巷。 「やってみろ……セットアップ、アウグストゥス」 少女の手の内で光を放つのは小さなクマのお人形。 光が納まれば少女の身を包むのは不釣合いなピッチリとしたネクタイと灰色のズボン型のスーツ。 その上からはロングコートを羽織り、手に持つのは……銃剣付きショットガン。 確かに銃剣まで完備した大型銃器を携帯するのに、デバイスと言う形はナイフ以上に都合が良い。 「それと私は『モンタルチーノの女の子』じゃない」 「ん?」 「私の名前はトリエラ。あなたに一度負けたけど、貴方を殺して……もう一度倒す者だ」 どちらとも無く闘争が弾ける瞬間、ピノッキオは思う。 「アァ……本当に女の子は苦手だ」と 上へ